「いちど権力を握ると、人間の大多数は悪人となってしまうものなのだ」(ソクラテス)
「彼(ソクラテス)は全人生をかけて一大風刺ゲームに遊んでいるようにみえる。しかし、彼が隠し続けている内面を一目でも見たならば…。それは神の如くだ。あまりに輝き、美しく、まったく驚くばかりなので、もはや何であれ、彼の言うことには従うしかなくなるのだ」
アルキビアデスのせりふだ。『饗宴』の彼は自己中心的だが、ソクラテスを愛してやまない若者として描かれている。
ところが、ソクラテスの弟子、クセノフォンによると、アルキビアデスは《もともと彼(ソクラテス)を好きでなかったし、会えば自分の誤りを追究されることに腹を立てていた》。また、《「ソクラテスのような生活をするくらいなら死を選ぶ」といった類(たぐ)いの人物》であり、まもなくソクラテスのもとを飛び出し、政治の世界に身を投じたのだという。
アルキビアデスは師の告発の5年前、祖国と人生に対する無節操さが災いし、暗殺される。