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ゾルゲのインテリジェンス力

 ゾルゲがただの「情報屋」でなかったことは、彼が逮捕前に書いた論文や、全面自供後に記した手記を読めば明らかだ。データ分析に加えて丹念に日本各地を見て回ることで、徴兵される兵士の供給源だった農村の窮状と、それゆえ戦前の日本が本質的に抱える危うさを看破。さらに日本の対中「膨張」志向の必然性を古代と中世の歴史から読み解く......ゾルゲが東京の特派員仲間から一目置かれただけでなく、ドイツ大使館内にいた秘密警察ゲシュタポからも絶大な信頼を受け、大使館内に一室を与えられたのも当然の結果だった。

 インテリジェンスは単に情報を入手するだけでなく、得た情報を正しく分析・評価して初めてインテリジェンス足り得る。70年前にゾルゲが実行していたのは、まさにインテリジェンスだった。

 ゾルゲが活動した日本は、国防保安法と治安維持法という強力な「スパイ防止法」が2つも施行されている時代だった。この2つの法律でゾルゲを刑場に送ることには成功したが、その後「インテリジェンス力」に劣る大日本帝国は、歴史の坂を破滅へ向かって転がり落ちて行く。