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未来小説のように見える

 主人公本田次郎は1915(大正4)年に生まれた。彼の青春は5・15事件とか2・26事件という血なまぐさい出来事と重なっている。大正デモクラシーの時代に少年期を過ごしたわけであるが、その時代は奇妙に現代と似ている。彼の実母のような理屈で子育てをしようとする母親は日本中に充満しているし、彼の祖母のようにわが子を分けへだてする親は数知れない。学校の教員の大多数は小説の中の教員の多くと同様凡庸である。そして彼の父親のような、道理のためには生命の危険をも冒す親は少なく、権田原先生や朝倉先生のように立身出世より生徒の実力――上からの命令に忠実に従うのではなく、良心の自由を失わず主体的に行動できる力――を伸ばすことを重んじる教員は稀である。その現代と似た状況はいつのまにか軍人の暴力が政治を壟断することを許し、友愛塾のような自由の精神を養う場を圧殺して報国塾のような全体主義的教育を盛んにして行った。この小説の後半は、私にはまるで未来小説のように見える。

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