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図書カード:門

 彼は生れつき理解の好い男であった。したがって大した勉強をする気にはなれなかった。学問は社会へ出るための方便と心得ていたから、社会を一歩退ぞかなくっては達する事のできない、学者という地位には、余り多くの興味を有っていなかった。彼はただ教場へ出て、普通の学生のする通り、多くのノートブックを黒くした。けれども宅へ帰って来て、それを読み直したり、手を入れたりした事は滅多になかった。休んで抜けた所さえ大抵はそのままにして放って置いた。彼は下宿の机の上に、このノートブックを奇麗に積み上げて、いつ見ても整然と秩序のついた書斎を空にしては、外を出歩るいた。友達は多く彼の寛濶を羨んだ。宗助も得意であった。彼の未来は虹のように美くしく彼の眸を照らした。

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