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『指導者の条件』
P164

 明治の先覚者福沢諭吉は、彰義隊の戦いのあったその当日も、騒然たる世間をよそに、上野からほど遠からぬ自分の塾で、英書で経済の講義を続けていたといわれる。そして当時、こういうことを学生達に語って励ましたという。
「かつてオランダがナポレオン戦争で領地を占領された時、世界でわずか長崎の出島のオランダ人居留地だけにオランダ国旗がひるがえっていた。それをもってオランダ人は、自分の国はかつてほろびたことがないと誇っている。それと同じように、われわれも世の中にいかなる騒動があっても、変乱があっても、日本の洋学の命脈をたやしたことがない。だからこの塾あるかぎり、大日本は世界の文明国だ。世間に頓着するな」

人間というものは、とかく周囲の情勢に流されやすい。治にあれば治におぼれ、乱に会えば乱に巻き込まれて自分を見失ってしまいがちなものである。そういうことなしに、つねに信念を持って主体的に生きるためには、やはり、われ何をなすべきかを考え、そのなすべきことをひたすらになしていくということが大切だと思う。

指導者の要諦とは、見方によっては、この、“なすべきをなす”ということにつきるともいえよう。