https://d1021.hatenadiary.com
http://d1021.hatenablog.com

峠 (上)
(上下2冊版の)P203

「あの男の碁ほど、愉快な碁はない。まるで眼中に勝敗がなく、そのくせどんどん勝ちを制してゆく」

この表現ができるというのは、よほど宋学でいう性理学をやった証拠だと思った。土田自身、あまりひろい学問をせぬから知識はすくないであろうが、しかし、性理学の本質をつかんでいる。

陸奥の弁舌のやかましさ、舌鋒のするどさには、塾のほとんどがかなわなかった。
 河井は、
 ―あれは鳥のさえずりだ。
 といって一度も相手にならなかった。土田衡平は陸奥が来るたびに相手になったが、「あの陸奥が土田にかかるとまるで子供だった」と鈴木無隠は後年いった。