胆力を試す
特別編集委員 森一夫
「何も悪いことをしていない。とことんやろう」という思いで妥協しなかった。四、五年かけて、従業員の気持ちが徐々に変わるのを待って完全に解決した。
＜中略＞
最終的に組合員の信頼を得たのは、「会社のため」という建前で言いくるめるようなまねをしなかったからだろう。山本さんは自分の言葉で信じることだけを正直に話したそうだ。
相互不信に陥った時に、きれいごとをいくら並べても説得力はない。かえって相手の警戒心をあおるだけだ。裸になってぶつかるのが上策である。それには胆力が要る。
＜中略＞
桜田武さんは日経連の総会で、「労使交渉をお互い教育し教育される場として誠意を尽くして行うほかない」と述べている。たとえ争議が起きても「争議もまた教育の場なり」との立場を堅持して解決しなければならないという。
＜中略＞
大人の関係になったのは結構だが、半面、お互いに胆力を試す機会が減ったのは惜しい気もする。
