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防衛大学校長 五百旗頭 真
私の妻にはグラスや器の収集趣味があったが、ゆるんだ。地震で砕かれたからというよりも、地震がやんだ時、無事生きていた娘たちを暗闇の中で抱きしめ、「他に何もいらない」とつぶやいたからであった。
 私の場合、自分の真の時は将来にあり、現在は力を蓄える段階という気分が強かった。が、針の先ほどの偶然で生死が分かれる現実を身近に見た。ゼミ生や院生があの若さで、有り余る志と才能を残したまま逝った。明日を期していても、明日はないかもしれない。暢気者(のんきもの)の私も、意味あることなら、今日起(た)って戦わねば、という感情が前よりも強くなった。

日経新聞夕刊)