【人、瞬間(ひととき)】あのとき バイオリニスト・千住真理子さん(上)
【人、瞬間(ひととき)】あの楽器 バイオリニスト・千住真理子さん(中)
「まるでバイオリンの方から、私の所へやってきたとしか思えない。でも、なぜ私なの? 私に何をしてほしいの? そう問いかける毎日でした」
そしてひとつ、心に決めた。これだけ素晴らしいバイオリンが来てくれたのだから、女性としての“普通の幸せ”は求めない、と。それが、この楽器を持つことになったものの責務のような気がした。
「一度しかない人生。すべての幸せを持てる人はいません。私はこの楽器が来てくれたことに敬意をもって報いたい。全身全霊をかけて、私にできることをやりたいんです」
【人、瞬間(ひととき)】あの言葉 バイオリニスト・千住真理子さん(下)
「(コンクールで)勝ち負けは問題ではない。コンクールは自分を磨く場であり、自分がいいと思った音楽をやればいい。他人(ひと)と争うのは止めなさい」と。「だれだれさんはこうしている」などと口にしようものなら、激しく怒られた。
そのときはまだ、父の言葉の意味が分からなかった。「こんなに努力しているのに…。私は理解されていない」と悲しくなった。