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『信ずる宗教、感ずる宗教』(山折哲雄)
京セラ相談役 伊藤謙介
 著者は、「信ずる宗教」を一神教といい、「感ずる宗教」を多神教であるとする。また、一神教は砂漠の産であり、多神教は緑なす山野のものであるという。
 さらに、両宗教の対照性について、論が進められる。
 信ずる宗教とは天上の絶対的存在を信ずることであり、自立し声高に主張する「個」がキーワードである。
 また、感ずる宗教とは地上の豊かな自然の中に神や仏の気配を感じることであり、寂寥のなかで静かに耳を澄ます「ひとり」がキーワードであるという。
 そして、現代は信ずる宗教に対してのみ憧れと脅威の眼差しを注ぐと警告する。
 つまり、個の突出した時代であるからこそ、著者は一貫して、人間を越えた存在の「気配」を感じ取ることこそ必要ではないかと語りかける。
 なぜなら、それが個、いわば自己中心主義の抑圧に繋がるからである。
 私たちは今、個が我が物に振る舞う、喧噪と饒舌の時代を走り続けている。
 だからこそ、ときに立ち止まり、星月夜を眺めつつ、悠久の時の流れに身を投じ、生きることと死ぬことに思いをはせたい。

産経新聞朝刊)