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『知命と立命』
P9

 学問というものを分類しますと、これは見地によっていろいろにできますが、学問のもっとも根本的性質による一つの分類をしますと、これを三つに分けることができます。一つは「知識の学問」です。これは今日の学問を代表するものと言ってよいでしょう。しかし知識の学問のみが学問ではなく、学問にはもっと根本的性質の区別があります。それは「智慧の学」というべきものです。
 知識の学問と智慧の学問では非常に違うのでありまして、知識の学問は、我々の理解力・記憶力・判断力・推理力等、つまり悟性の働きによって誰にも一通りできるものです。子供でもできる、大人でもできる、善人もできる、悪人もできる。程度の差こそあれ、誰でもできる。その意味では、機械的な能力です。しかしそういうものではなく、もっと経験を積み、思索反省を重ねて、我々の性命や、人間としての体験の中からにじみ出てくるもっと直観的な人格的な学問を智慧の学問といいます。だから知識の学問より智慧の学問になるほど、生活的・精神的・人格的になってくるのであります。
 それを深めると、普通では容易に得られない徳に根差した、徳の表れである徳慧(「とくけい」あるいは「とくえ」と発音)という学問になる。これが聖賢の学であります。
 我々の知能の働きに関しては、こういう東洋的思惟に限らず、西洋でも同じような考え方がありまして、たとえばイギリス哲学によりますと、単に本を読んだり、暗記したりするような知性の働きのことをcogitationといっております。それがもっと性命的になるとmeditationとなり、それをさらに深めてcontemplationと申しております。
 また、ドイツ流をとりますと、私どもが学校でやってきたような勉強、こういう知識の学問をすることを、その性質を表明して、arbeitswissenアルパイツヴィッセン〈労働知〉といっております。これは善人が使えばよいほうに役立ち、悪人が使えば悪いほうに役立つ。使う者によってどうにもなる。そのままでは頭の機械的労働にすぎない。もっと人格に役立つ、人類の幸福・運命に役立つものは、そんな労働知ではなくて、もっと建設的という意味で、bildungswissenピルドゥングスヴィッセン〈形成知〉といっております。それがさらに徳に根差し、徳を表現して、世俗を脱け出たものになると、erloezungswissenエルレーズングスヴィッセン、即ち〈解脱知〉という字を用いておりまして、つまらない通俗・低級な境地を脱して聖哲であるという意味で、heilswissenハイルスヴィッセン〈聖知〉ともいっております。西洋哲学も東洋哲学もそういう点では一致しております。
 だんだん学問するにしたがって、我々がねじり鉢巻で試験勉強をするような頭の使い方、そういう知性はあまり価値がない。本当はだんだん人生の体験を積んだ深い叡智にならねばならない。
 そこで、 教育に携わる学校の先生にもいろいろあるわけで、単に本を読ませたり、暗記させたり、推理させたり、試験したりするような、単なる知識技術を教える先生はレーゼマイスターLesemeister〈読師〉という。本当の先生は人間をつくるレーベマイスターLebemeister〈導師〉でなければならない。世の中にはレーゼマイスターはいくらもおりますが、レーベマイスターが少ない。この師によって初めて人間が人格として、精神的・霊的存在として向上する。その向上が政治・経済・教育・百般の生活に応用されて真の文化というものになる。
 そこで徳慧の学問、即ち広い意味において道徳的学問・人格学、これを総括して「人間学」というならば、この人間学が盛んにならなければ本当の文化は起こらない。民族も国家も栄えない。これは動かすべからざる歴史的真理であります。私どもが念願していることは、この大切な根本的な意味における人間学を盛んにして、これを国家生活・国民生活百般の上に実現していきたいということであります。


本当の学問というものは、立身出世や就職などのためではなく、窮して困しまず、憂えて心衰えず、禍福終始を知って、惑わないためである。〔荀子

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茂木健一郎が得意気に語っていることは多くの人が知っているはずで、今頃「脳科学者」が語ることではありません。