ビル・エモット 特別インタビュー 「日本の次期総理は英ブレア前首相の貧困層対策に学べ」 | News&Analysis | ダイヤモンド・オンライン
誰の目にも明らかなことであり、私も繰り返し指摘してきたことだが、とにかくもっと早い時期に解散・総選挙の決断を下すべきだった。
麻生首相は、海外においても、どうしても総理になりたかった人物として紹介されている。昨年の福田辞任後は、首相になる人生において最後のチャンスだったのだろう。麻生氏は首相という立場を果たして楽しめたのか、是非聞いてみたいものだ。
麻生首相については、このまま去ることになれば、政治的変化を拒んだ人物として以外思い起こされることはないのではないか。
―自民党のマニフェストはどう読んだか。
麻生首相がマニフェスト発表時に「他党との違いは責任力だ」と述べたことは海外でも報じられたが、その“責任力”という言葉は、これまで約束を果たせなかった党の党首の口から出る言葉としてはいくらなんでも不適切だろう。
たとえば、民主党が社会支出を増やすことは、アンチ・マーケット(反市場的)なのかといえば、必ずしもそうではないはずだ。社会支出のために全体の支出を再配分したり税金をより多く使うことは、ソーシャル・ジャスティス(社会正義)やイクオリティ(平等性)の実現に重きを置いている限りは、反市場的ではない。
ただ、その一方で、もし規制緩和の流れを逆行させる、あるいは民営化の流れをひっくり返すようなことがあれば、それは間違いなく反市場主義の発露であり、将来の経済成長の芽を摘む危険な行為だ。日本についていえば、郵政民営化が“リバース”されるようなことがそれに当たる。
英国、特にブレア前政権の内政上の功績から学べることはたくさんあると思う。
社会正義と市場経済とは矛盾しない、マーケットファンダメンタリズム(市場原理主義)とソーシャリズム(社会主義)のどちらか一方を選ぶ“シンプルチョイス”ではないという簡単な事実をわれわれに思い起こさせ理解させてくれた。
一例を挙げれば、1999年の最低賃金制度の再整備とその後の引き上げだ。当時、私は「エコノミスト・ロンドン」の編集長であり、最低賃金の引き上げは企業の雇用意欲を削ぎ、失業率の上昇を招くだけだと警鐘を鳴らしたのだが、結果として、そのような事態には陥らなかった。
トータルな政策パッケージが不可欠だ。
ただ、そうした前提を語った上で敢えて述べれば、日本も最低賃金の引き上げは、たとえ不況下でも検討したほうがいいと思う。確かに、失業率は少し上がるかもしれないが、それ以上に、貧困層の賃金水準の改善を通じた、所得の再配分効果が期待できることは英国の経験が証明している。