https://d1021.hatenadiary.com
http://d1021.hatenablog.com

1ドル60円台でも不思議ではない! 「実質」で分析する正しい為替の見方 | 野口悠紀雄 未曾有の経済危機を読む | ダイヤモンド・オンライン

 日本経済全体の海外との関係を一般的に考えるのであれば、本来見るべき指標は、実質実効レートである。これは、日本の貿易相手国との為替レートを貿易額で加重平均し、さらに各国間の物価上昇率の違いを調整した指標であり、日本銀行によって算出されている(【図表1】参照)。

 最近の新聞記事には、「14年ぶりの円高」という表現がよく見られる。これを見ると、あたかも14年前、すなわち95年当時の円高レベルまで為替レートが戻ったような錯覚に陥る。名目の円ドルレートでは確かにそうなのだが、実質実効レートで見れば、95年の水準に比較して、現状はまだまだ円安なのである。

貿易に影響を与えるのは、名目レートの変化ではなく、実質レートの変化だからである。1年以内程度の短期を考える場合には名目と実質の差はさほど重要ではないが、中長期を考える場合には、名目レートだけを見ていると、誤った認識を持つことになる。

95年以降、一貫して実際の為替レートは購買力平価より円安だったことがわかる。乖離率は、07年には、現実のレートは、購買力平価で正当化される率から実に67%も乖離していた。

 これによって、日本の輸出品の価格競争力は著しく向上したわけだ。02年頃からの日本の輸出を急増させた要因として、日本企業のコスト削減努力があげられることが多い。そうした側面があったことは事実だろうが、現実に最も大きな影響を与えたのは、購買力平価に比べて現実の為替レートが大幅に円安になってしまったことなのである。

 ところで、日米の実質金利が等しいとすると、名目金利の差は物価上昇率の差に等しい。したがって、金利平価による為替レートは、購買力平価による為替レートに等しくなる。


 しかし上で見たように、現実の為替レートは、購買力平価に比べて大幅に円安だった。これは、日本からアメリカに投資して再び日本に戻すとき、為替差損が金利収入の差より小さかったことを意味する。したがって、海外投資の収益率は、日本国内での投資の収益率より高かったわけだ。


 このために、円キャリー取引が生じたのである。これは円を売ってドルを買う取引であるため、円安をさらに促進する。こうして、「円安が円安を呼ぶ」という「円安バブル」が発生することになる。07年までの異常な円安は、こうしたメカニズムによって生じたのである。

07年夏以降の円高への動きは、そこから正常な水準に向かって復帰しつつある過程に他ならない。

 また、仮に為替レートを円安に誘導するために為替介入を行なっても、世界的な金利水準が低下してしまったために、円安を実現することは不可能に近いだろう。

 為替レートを円安に誘導しようとするのではなく、日本経済の構造を、円安なしで成長が可能なものに改革することのほうが、はるかに重要である。