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西郷隆盛 遺訓

八 廣く各國の制度を採り開明に進まんとならば、先づ我國の本體を居(す)ゑ風教を張り、然して後徐(しづ)かに彼の長所を斟酌するものぞ。否らずして猥りに彼れに倣ひなば、國體は衰頽し、風教は萎靡(ゐび)して匡救す可からず、終に彼の制を受くるに至らんとす。

一〇 人智を開發するとは、愛國忠孝の心を開くなり。國に盡し家に勤むるの道明かならば、百般の事業は從て進歩す可し。或ひは耳目を開發せんとて、電信を懸け、鐵道を敷き、蒸氣仕掛けの器械を造立し、人の耳目を聳動(しようどう)すれ共、何に故電信鐵道の無くては叶はぬぞ缺くべからざるものぞと云ふ處に目を注がず、猥りに外國の盛大を羨み、利害得失を論ぜず、家屋の構造より玩弄物に至る迄、一々外國を仰ぎ、奢侈の風を長じ、財用を浪費せば、國力疲弊し、人心浮薄に流れ、結局日本身代限りの外有る間敷也。

二 漢學を成せる者は、彌漢籍に就て道を學べし。道は天地自然の物、東西の別なし、苟も當時萬國對峙の形勢を知らんと欲せば、春秋左氏傳を熟讀し、助くるに孫子を以てすべし。當時の形勢と略ぼ大差なかるべし。