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「正社員」という法的地位はない (野川)

たとえば、労基法は正社員だろうが有期雇用労働者だろうがパート労働者だろうが、もっと言えば学生のアルバイトにも適用されますし、労組法に至っては雇われていない人でも、一定の要件を満たせば適用されます。したがって、正社員に既得権があるとしたら、それには特別な法的根拠はないのであって、企業社会が作り上げた慣行に過ぎないのです。

解雇権濫用法理(労契法16条)や整理解雇法理(これは法律には書いておらず、裁判所が判決を積み重ねる中で作られた「判例法理」ですね)は、確かに一般的にイメージされる「正社員」を守っているように見えます。しかし、それも、まさに安藤さんがご指摘の通り、そして私も著書やツイートで指摘しているように、契約によって正社員は長期雇用を享受し、その代り過酷な指揮命令によって過労死の危険まで引き受けて働いているという実態が背景にあります。

それでは現在の正社員の「既得権」を法的に奪うことを正当化するような根拠がありうるか、ということになりますが、 そこは安藤さんのご指摘通り、若者の雇用を拡大するために年長者の早期引退を促す(フランスではかなり本格的に取り組まれましたね)とか、企業経営にもう少し柔軟性を持たせるために解雇の金銭解決制度を設ける、といった提案がなされる可能性があります。しかし、そうした対応がなされれば大きな不利益を余儀なくされる人々が生じるのであって、仮にそのような提案が検討される場合には、年長者の職業人生を他で生かせる場の確立や、転職市場の充実・拡大と転職によって労働条件は下がらないという可能性の確立など、非常に難しい対応策が必要となるでしょう。