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裏千家前家元・千玄室 知識を生かす智慧

 私の家には一つのエピソードが残っている。今から約400年前、利休の孫である3代の宗旦が敷地内に茶室を新しく造った。そして、かねて親交のある大徳寺の清巌和尚(第170世、1588〜1661)を招いて茶事を催そうとした。ところが、清巌和尚は日を間違えたのか約束の時間になっても来られないので、他用があった宗旦は「明日おいでください」と伝言し、急ぎ外出をした。その後、清巌和尚は約束を思い出して駆けつけ、遅参したことを詫(わ)びた。しかし、折角(せっかく)なので茶室にあげて貰(もら)って、何かを書き残していかれた。宗旦が帰宅して茶室に入ると「懈怠比丘不期明日(けたいのびくみょうにちをきせず)」「怠け者の坊主には明日がない」との書があった。宗旦は「今日今日と言いてその日を暮(くら)しぬる 明日の命はとにもかくにも」との返書をもって改めて茶室披(びら)きをしたという。明日にしよう。まあ後でやろうという気持ちは怠惰である。今日という日が互いに大切で、今日を粗末にしては明日もないという、いわばお互いの悟りの境地を表している。