政府・与党内では、政府の初動対応について、「米側は早々に原子炉の廃炉はやむを得ないと判断し、日本に支援を申し入れたのだろう。最終的には廃炉覚悟で海水を注入したのに、菅首相が米国の支援を受け入れる決断をしなかったために対応が数日遅れた」(民主党幹部)と批判する声が出ている。
記者団からは「原発の安全性をPRしてきたのは正しかったか」「福島県民に希望はあるのか」といった質問が相次いだが、「イエスかノーかで答えられない」と言葉を失っていた。
政府内には「政治主導はいいが、結局、官邸は何も決められない」と嘆く声も出ている。
18日朝。東京電力福島第一原子力発電所(福島県)への地上からの放水方法を巡り、首相は北沢防衛相、枝野氏らと首相官邸で協議した。しかし、1時間たっても結論が出ないことにしびれを切らした首相は、「そんなのはもういい」と議論を打ち切った。議論の中心は「高濃度の放射性物質が漏れ出す危険性の高い3号機だけに放水するか、1号機にも放水するか」だったが、結局は「現場に任せる」という当たり障りのない結論に落ち着いた。
この日の協議では、前夜から始まっていた放水の指揮を、自衛隊に一元化することもようやく確認した。
理系の東京工業大出身で「原子力には強い(詳しい)」と自負する首相は、原発対応には人一倍やる気を示し、首相官邸での陣頭指揮にこだわっている。しかし、首相や周辺が、今回の原発事故の被害の大きさや事態の緊急度を見誤り、初動の遅れにつながった、と言う声は消えない。
米国が申し出た支援を断ったことが、その後の事態の深刻化を招いたという見方も出ている。
米国のクリントン国務長官は地震発生直後、ホワイトハウスでの会合で原発事故に触れ、「日本の技術水準は高いが冷却材が不足している」と懸念を示した。
民主党幹部は「米側はその後、原発事故への支援を申し出たが、日本側は辞退した」と語る。首相周辺は「支援の話は首相や官房長官には届いていない」としているが、「東電が原子炉を廃炉にせず、自力で収拾できると考えていたことが政府の判断に影響を与えた」(政府筋)という声もある。核分裂の反応を抑える効果から原子炉の冷却に使われるホウ酸と海水を注入すれば、運転再開は難しくなる。これを東電が嫌がり、政府も追認したというわけだ。
結局、12日になって福島第一原発1号機で水素爆発が発生し、東電は海水とホウ酸の注入に踏み切った。