再燃した「菅降ろし」 狡猾・首相の延命戦略 閣内からも火の手
5月31日夜、鳩山氏は公邸で首相との直談判で退陣を迫った。仲裁に入ったのが、平野博文元官房長官と北沢俊美防衛相だった。信頼する平野氏に確認書の原案を見せられた鳩山氏は「退陣という文言を入れてほしい」と求めたが、やんわり拒否された。
「そんなもん書かんでええですやろ。身内の話やんか…」
2日午前、鳩山氏は「文書ができたので来てほしい」と官邸に呼び出された。鳩山氏が「第2次補正予算案の編成のめどがついたら身を捨てていただきたい」と求めると、首相は平身低頭に「分かりました。合意します」。それでも署名には「身内なんだから信用してください」と応じなかった。
だが、代議士会での退陣表明は「一定のめどがついた段階で若い世代に責任を引き継ぎたい」と曖昧だった。一抹の不安を感じた鳩山氏は電話で念押しした。
鳩山氏「いつまでに辞めていただけるんですか?」
首相「あなたと会談で話したことに尽きる。それ以上でもそれ以下でもない…」
その数時間後、首相は記者会見で早期辞任をきっぱり否定する。
3日の参院予算委員会でも首相は「文書以上の約束はない」と開き直った。強気の裏には首相なりの勝算があった。
国会には同一会期に同一案件を審議しない「一事不再議」の原則がある。12月まで会期延長すれば内閣不信任案は再提出できない。野党は反発するが、復興の「大義」があるだけにいつまでも審議拒否はできない。復旧が進めば解散カードも行使しやすい。加えて内閣改造や連立をちらつかせれば延命は十分可能ではないか−。
たとえ鳩山氏が党所属議員の3分の1の署名を集め、両院議員総会を開いても党規約に党代表のリコール規定はない。党規約を改定し、新代表を選んでも「首相が代表を兼ねる必要はない」とつっぱね、首相に居座ることはできる。
「鳩山氏は御しやすい」とみる首相にとって残る危険分子は小沢一郎元代表だけ。首相は不信任案否決直後、岡田克也幹事長にこうささやいた。
「小沢を除籍処分にしろ」
岡田氏はすぐ実行に移したが、輿石(こしいし)東(あずま)参院議員会長が「それならば俺はバッジを懸けて戦う!」と抵抗したため断念した。それでも秋まで政権を維持すれば小沢氏の政治資金規正法違反事件の公判が始まる。もはや動けまい−。
ところが、首相のもくろみは崩れつつある。あまりに狡(こう)猾(かつ)な手口は、不信任案を初めから否決するつもりだった中間勢力までも不信感を強めたからだ。早期退陣論は閣内にも広がった。
ある党幹部はこう嘆いた。
「せっかく不信任案を否決したのにオウンゴールしているよね」