現在、年間2500局ほどあるプロ棋士の公式戦の半数以上は、パソコンのウェブサイトや携帯電話で見ることができる。しかし、谷川がプロになった70年代後半、情報はあまりにも少なかった。
「プロの公式戦の棋譜を研究したくても、情報は雑誌や主催の新聞紙面でしかなかった。雑誌だと1カ月遅れですし、新聞も1局が7回ぐらいに分けて掲載される。将棋の本も、今でこそ非常にレベルの高い技術書がありますが、当時はほとんどありませんでした。環境が恵まれず、情報が少ない分、自分の工夫で強くなっていくしかなかった。私も地道に詰め将棋を解いたり、作ったりしながら勉強しました」
「しかし、それをマイナスだとは思っていません。当時を過ごしたことが私の将棋の基礎となっていると思います。そうした時代にプロになったことこそ、私という棋士の個性になっているのです」