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コラム:宗教学と経済学から見た欧州債務危機の深層=上野泰也氏

中央大学総合政策学部保坂俊司教授は、ユーロ危機を引き起こした当事国が総じてカトリック国(あるいは非プロテスタント系)であることに着目し、欧州債務危機の根源に倫理観、特に経済倫理の違いがあるとの指摘を行っている(「週刊エコノミスト」2012年6月19日号掲載論文「宗教の歴史 カトリックプロテスタント 欧州危機が示す倫理観の差」)。


日本の外務省ホームページで、冒頭で挙げた7カ国の宗教分布を調べてみると、カトリック教徒の比率は、イタリアで約97%、アイルランドで約87%、スペインで約75%(外務省は「と言われる」として限定的表現は避けている)、ポルトガルで「圧倒的多数」、スロベニアで57.8%だという(ギリシャキプロスではギリシャ正教が優位)。保坂教授は、カトリック派の国々について、「倹約や勤勉が美徳とされる日常生活重視のプロテスタント派とはやや異なり、人間生活の意味を多元的にとらえる。言い換えれば、財政健全化のために身を削るような倹約をするよりも、他の道があるはずだと考える」(前出の論文より引用)と指摘している。

また、先日ある日銀関係者からご教示いただいたが、英ウォーリック大学のサッシャ・ベッカー教授も、カトリックプロテスタントという宗派の違いが欧州の「南」と「北」の財政状況の差異につながっていると述べている(英紙「ガーディアン」2011年10月31日付記事「Protestant v Catholic: which countries are more successful」)。同教授の分析によれば、一般論として(欧州では)プロテスタントカトリックよりも高いレベルの教育を受ける傾向が強く、それが経済的成功の一因であり、女性の社会進出が活発になった20世紀以降もそうした傾向は変わっていないという。

こうした指摘は、ドイツの社会学マックス・ウェーバーが「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」で指摘した近代資本主義の原点を、今回の欧州債務危機における対立の構図に重ね合わせようとする考え方であり、一定の説得力は確かにあると言える。

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