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QE3は何の効果もなく、世界経済を混乱させる|野口悠紀雄の「経済大転換論」|ダイヤモンド・オンライン

 今回の緩和措置の背中を押したのは、雇用情勢が改善しなかったことだ(8月の雇用統計で、非農業部門の就業者数が前月比9万6000人増にとどまり、市場予想の13万人を大幅に下回った)。注目されるのは、「労働市場の先行きに十分な改善が見られるまで、適切な手段を取る」とされたことだ。QE2では物価上昇率が問題とされたが、今度は「雇用」という実体経済の指標が目標にされたことになる。


 しかし、この目標は達成できないだろうと考えられている。バーナンキFRB議長自身も、「金融政策は万能でない」と認めている。


 以下で述べるように、アメリカの雇用が伸びず、賃金所得が増えていないのは事実である。しかし、それは、新興国の工業化という構造的要因によると考えられる。だから、金融政策で解決できないのは当然だ。そして、これまで本連載で述べてきたように、金融緩和は世界的な投機資金の流れを引き起こし、世界経済に混乱をもたらすことになるだろう。

アメリカで金融緩和が行なわれるのは、上述のように雇用情勢が改善しないからである。では、アメリカ経済は、全体的に落ち込んでいるのだろうか?


 決してそうではない。

 GDPの構成要素を分解すると、企業利益の伸びが著しいことがわかる。

 アメリカ経済の問題は、賃金所得が伸びないことである。

 つまり、アメリカが抱えているのは、「企業利益が伸びて、賃金所得が伸び悩む(あるいは低下する)」という、分配の問題である。これは構造的な問題である。

 これが構造的な問題であることは、アップルの場合に象徴的に現われている。


 アップルの製品は、台湾のEMS(Electronics Manufacturing Service 電子機器の受託生産)企業ホンハイの子会社フォックスコンなど、世界中の企業で水平分業によって生産されている。新興国の安い労働力を使って安い原価で製造し、高く売って利益を得るのだ。しかし、こうした活動のほとんどがアメリカ国外で行なわれるため、アメリカ国内の雇用は増えない。

 アメリカ国内で伸びるのは、金融に代表されるように、高度の専門家のサービスだ。だから、少数の人が高い所得を得るようになる。そして、所得格差が発生する。

 日本が抱えている問題は、アメリカの問題とまったく同じではない。とくに、企業利益が成長していない点で、かなり異なる。しかし、賃金が伸びない点では同じだ。そして、これが構造的な問題である点でも同じだ。さらに、構造的問題を金融緩和で解決しようとしている点でも、同じ誤りを犯している。