ここで少し貴方に質問をしてみたいと思います。
大胆な金融政策を打つと、例えば2%程度のインフレが何故起きるようになるのか?
如何です?
私の想像ですが、リフレ政策を支持する多くの方は、世の中に出回るお金の量が増えれば、インフレになるのは当然ではないか、と考えると思うのです。
世の中に存在するモノやサービスの量が一定である一方で、お金の量が増えれば、お金の量が増えるに応じて商品の価格は上がる筈だ、と。
そういう考え方を貨幣数量説という訳です。
では、クロトンこと黒田総裁もマネーを大量に市場に放出すれば、物価が上がるのは当然だということで、ガンガン長期国債を購入するというのか?
もし、そうであれば、非常に分かり易い。そう言った考えが正しいかどうかは別にして、非常に分かり易い。
では黒田総裁は、どういうメカニズムでマイルドなインフレを起こすというのか?
もちろん彼の主張はもう既にご承知のように、今後2年間に渡って大量に長期国債を買い上げることが中心になっており、従って、それに応じてマネタリーベースが大量に供給されることになるのですが‥
では、マネタリーベースが増大すれば、即インフレが起きると言うのか?
でも、彼の主張はそんなに単純ではないのです。
彼の主張を非常に単純化すれば次のようになるのです。
長期国債をガンガン買う。
そうすると、長期金利が下がる。長期・中期も含め、金利全体が下がる。
そして、長期国債を買うと同時に、株や不動産を買う。
そうすると、株や不動産の価格が上る。
こうしたことの結果、投資家は、国債への投資から、株や不動産、或いは貸出などへ投資をシフトする。
で、そうした変化が起これば、企業や家計の予想に変化が起こり、経済活動が活発となり、インフレが起きる、と。
ところで、皆さんのなかには、マネタリーベースが2年間で倍増する訳だから、だったら、それだけでインフレが起きると何故言わないのかと不思議に思っていらっしゃる人も多いと思うのです。
でも、言っときますが、確かにクロトンはマネタリーベースを2倍にすると言ってはいるのですが、実際に世の中に出回る日銀券の量は、たった3兆円しか増えないとも言っているのですよ。
実は、クロトンのこのアイデアは、バーナンキ議長が2012年8月31日にジャクソンホールで行った講演の内容とほぼ同じものなのです。
但し、バーナンキ議長は、自らの政策を大量の資産購入策と呼んだのに対して、クロトンは、マネタリーベースを政策目標とする量的・質的金融緩和と呼ぶだけの違いなのです。
ともに共通する大量の長期国債の購入と平均残存期間の長期化。
そして、両者とも、大量の長期国債の購入によって長期金利の低下が促される、と。そして、長期金利の低下が促されるので、投資活動が活発になるであろう、と。
しかし、クロトンは大切なことを忘れてしまっているようなのです。
それは、米国においても、そうした超緩和策を採用した結果、米国の長期金利はむしろ上昇に転じているという事実なのです。
つまり、日本においても、米国を真似した政策を採用すれば、いずれ長期金利の上昇が起こるであろうということです。
だって、人々がこれから先インフレが起きるであろうと予想するようになるのだったら、お金を貸す人々はインフレ率に応じて金利を上げようとするのは当然であるのですから。