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『二重らせん』 時代をつくり続けるワトソンとDNA−中村桂子

昨年のノーベル医学・生理学賞は、京都大学山中伸弥教授に授与されました。受賞理由は、「成熟細胞が初期化され多能性をもつことの発見」です。受精卵は分裂を重ね、体全体を作れます。一方、腸細胞、皮膚細胞などはそれぞれの役割がきまっており、それ以外の細胞にはなれません。


 受精卵細胞から体細胞に変わる間に何が起きているのだろう。山中教授は、この間にはたらきを失った遺伝子を外から加えたら元に戻るのではないかと考えたのです。大胆な発想です。賭けです。多くの研究者の予想に反して、たった四つの遺伝子で皮膚細胞は万能性をとり戻しました。すばらしい。ノーベル賞受賞は時間の問題でした。

 日本人によるこの賞の受賞は1987年の利根川進MIT教授以来で、二人目です。利根川教授の受賞理由は、「多様な抗体を生成する遺伝的原理の解明」でした。体内へ侵入する外敵は百万種を越すと言われ、しかもいつ何が入ってくるかわかりません。その一つ一つに対応するのが免疫細胞です。


 遺伝子は2万数千個しかないのに、どうやって多様な外来因子に対応するのか。利根川教授の答えは、遺伝子がさまざまに組み換えて多様性を出すというものでした。当時は、遺伝子は変わらないと信じられていたので、驚きでした。

利根川、山中両教授共「DNAのはたらき」を通して生きものの持つ柔軟性をみごとに示しました。つまり、人間をも含む生きものの研究は、今やDNA抜きでは語れないのです(これはDNAですべてがきまっているという話ではないことを念のためお断りします)。

 DNA二重らせんは、A、T、G、Cと表記される(詳細は省略)四種の塩基が、必ずAとT、GとCという対を作って並んでいるのが特徴です。ワトソンとクリックは論文に、「われわれが仮定した特異的塩基対は、ただちに遺伝物質の複製の仕方についての、ある可能な機構を示唆するものであることは、むろん、われわれ自身気づいているところである」と書きました。


物質の構造の中に生命現象の基本が入っているのです。こういう姿を誰も考えてはいませんでした。ワトソンは「それはあまりにも美しい。おわかりでしょう、ほんとうに美しい」と言っています。単なる物質に過ぎないと思いながらこの美しさには参ります。

二重らせん (ブルーバックス)

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ワトソン遺伝子の分子生物学 第6版

ワトソン遺伝子の分子生物学 第6版