コラム:雇用のみ強い米経済、6月利上げは可能か=鈴木敏之氏 | Reuters
18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明からは、事前の予想通り、金融政策の正常化に関し「忍耐強く(patient)」いられるとの文言が削除され、利上げへの道が開けた。しかし、市場参加者が今、悩ましく思うのは、ここへきて米経済指標に弱めの動きが多くみられることだろう。
米供給管理協会(ISM)発表の製造業景気指数だけでなく、小売売上高、鉱工業生産も軒並み冴えない。アトランタ連銀の計量経済調査センターは、2015年第1四半期の国内総生産(GDP)成長率について、0.3%という極めて低い予測を出している(3月17日時点)。そうした中、強いのは雇用統計だけ。かつての「雇用なき景気回復(Jobless recovery)」とは真逆の、「一時的な成長鈍化(Soft patch)局面での雇用拡大」とも言える状況だ。
この「一強他弱」の指標は、利上げの可能性について、逆方向のメッセージを与える。雇用統計に着目すれば、米連邦準備理事会(FRB)は利上げ開始に向けて早めの行動をとるべきということになる。しかし、他の指標に視野を広げれば、利上げどころではないという話になってしまう。全般的な経済活動の遅行指標として雇用指標をとらえれば、なおさら利上げは遠のいてしまう。果たして、どの解釈が正しいのだろうか。
ただし現時点ではまだ、就労者数が増えているほど、労働需給のスラック(緩み)は縮小していないとの解釈も可能だ。これは、米労働市場がパートタイムの就労に頼る構造になっているためである。
もっとも、雇用と全般的な指標の動きが合致しない背景には、実はさらに厄介な問題がある。2008年の金融危機以来、労働生産性の伸び率が低下していることだ。
生産性の伸びを左右するのは、設備投資の勢いだ。設備投資の姿勢を資本係数の動きでみると、危機後に変わって、低下傾向になっている。米国経済でも、危機を経て投資の抑制が起きていることになる。金融緩和が企業の投資を積極化させ、それが労働生産性を高めることで、企業に賃金引き上げの誘因をもたらすというサイクルは十分にはまわっていないのだ。金融危機が経済に与える傷の深さをみせつける現象と言えよう。