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高度サービス産業で成長する米国経済と、取り残される日本|野口悠紀雄 新しい経済秩序を求めて|ダイヤモンド・オンライン

 金融緩和から脱却ができるのは、アメリカの実体経済が強いからである。

アメリカ経済の強さは、さまざまな指標で確かめることができる。

 第1は、アメリカ、イギリス、それにアイルランドであり、2%強の成長を続ける。リーマン前に比べれば決して高成長とはいえないが、先進国間の比較でいえば、かなり高い成長率だ。


 第2はドイツで、1%台の成長である。


 第3が日本で、1%台ないしそれ未満の成長率しか実現できない。日本の停滞ぶりは、とくに第1グループ諸国との対比において鮮明だ。


 つまり、アメリカ金融緩和脱却後の世界において、先進国は3つのグループに分かれることになるわけだ。第1はアメリカ、イギリス、アイルランドであり、先進国の中では最も高い成長率を実現する。第2はユーロの主要国であり、第1グループよりは低いが、成長を実現する。そして第3が日本であり、停滞を続ける。

企業ランキングで見る日米の成長性の大きな差|野口悠紀雄 新しい経済秩序を求めて|ダイヤモンド・オンライン

アメリカ経済を牽引しているのは新しい産業であると前回述べた。今回は、個別企業の観点から、この状況を見よう。

原油価格低下によりエクソンモービル時価総額が減少し、アップルが時価総額で全米1位(世界1位)の企業となった。


 グーグル、マイクロソフトエクソンモービル時価総額がほぼ同程度で、アップルがその2倍程度になっている。


 このように、アメリカ経済の時価総額リストでは、IT関係の企業がトップを占めることになった。これは、現代のアメリカ経済を象徴している。


 売上高に対する税引き前利益の比率は、エクソンモービルでは13.1%であるのに、アップル、グーグル、マイクロソフトでは、その2倍以上になっている。このような高収益性が実現されているのは、これらの企業が先端的な技術や新しい製品を開発したからだ。


時価総額の利益に対する比率を見ると、エクソンモービルが7.2であるのに対して、アップル、グーグル、マイクロソフトでは、その2倍以上だ。とくにグーグルの値が高い。


 この値は、将来利益がどれだけ成長するかを示している。値が高いのは、将来の利益が現在の利益に比べて増大すると予想されていることを意味する。したがって、エクソンは将来の利益が現在の利益より大きく伸びるとは考えられていないのに対して、グーグルの成長可能性は極めて高く評価されていることになる。アメリカの成長産業がエクソンのような伝統的企業ではなく、新しい技術や商品を開発した企業であることが、これから分かる。

 なお、アップル、グーグル、マイクロソフトのような企業の利益は、為替レートによってあまり影響されない。「ドル高でアメリカ経済が苦しくなる」という意見があるが、それはいまから30年前のプラザ合意のときのことだ。そのときには、アメリカの産業の中心は自動車産業であり、ドル高による日本車の輸入増加で苦しめられた。


 いまのアメリカの産業構造は、このときとはまったく違うものになった。少なくとも、自国通貨の増価によって存立の危機に追い込まれるというようなことはない。アップルの場合には、後述のように海外で生産したものを輸入しているので、むしろドルが高くなるほうが有利である。


 日本企業の特徴として、利益が為替レートに大きく左右されることがあげられる。円安になれば利益が増加するが、円高になれば企業の存立をも脅かされる事態に陥る。為替レートは、さまざまな要因で不安定に変化する。世界経済情勢の予測できない変化によっても変わる。こうした要因に利益が振り回されるのは、脆弱な構造だ。

 ところで、図表2に示すグループには、日本企業は入っていない。日本には、ここで述べた意味での価値ある先端企業は存在しないのである。これこそが、日本の産業構造の基本的な問題だ。将来の成長を求めるのであれば、このグループに属するような企業が日本でも誕生しなければならない。

フィナンシャル・タイムズの「グローバル500」は、時価総額の大きな順に500の世界企業をリストアップしたものだ。この中には、1人当たり時価総額が大きい企業と、規模が大きいために時価総額が大きくなっている企業とがある。先に見たのは、前者である。

 ここに登場する企業を見ると、つぎのような特徴がある。


 第1に、中国の国有企業が多い。


 第2に、それ以外では、古くからある伝統的な企業が多い。

 なお、日本企業では、トヨタ、日立がこのグループに入る。トヨタは、1人当たり利益でも時価総額でも、アップルの10分の1程度の水準である。日立の1人当たり利益は、アップルより2桁少ない。


 日本のエクセレントカンパニーとは、新しい技術や製品を導入したのでなく、従来の技術に改善を加え、効率性を増し、そして大規模化した企業であることが分かる。あるいは、大規模化したが、時代の変化に対応してスリム化できない企業だと言ってもよい。

 すでに見たように、量的な巨大さでは、中国企業の台頭が目立つ。とくに国有企業がそうだ。こうした企業と量の面で競い合っても意味がない。先進国企業は、むしろ、こうした企業との適切な協働関係を構築すべきだ。


 製造業の巨大企業ホンハイ(フォックスコン)に典型的に見られるように、これら巨大企業は、先進国の高収益企業を支えるのである。先進国の企業は、そうしたビジネスモデルに組み替えるべきだ。


 これは、量の面で中国企業が現れた後の世界での、先進国企業にとって本質的な課題である。量の拡大を追求しても、未来は開けない。


 それにもかかわらず、日本はいまだに合併して企業規模を大きくする方向を目指している。確かに、規模が大きくなれば、生き残りの確率は高くなるかもしれない。しかし、それによって未来が積極的に開かれるわけではない。日本は量的拡大でなく、質的向上と企業価値の向上を目指すべきだ。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20150430#1430390912
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20150430#1430390920
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20150428#1430218310