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債券市場のプロは、異次元金融緩和の弊害を理解している 【特別対談・前篇】林宏明×松村嘉浩|なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?|ダイヤモンド・オンライン

最近の政府筋の発言で明らかなのは、もはや、政府は日銀に2%のインフレを求めていないことでしょう。日銀はリフレ派のひとたちからも梯子を外されたといっていいかもしれません。その背景は株高を実現できたからに他ありません。実際のところ、「株価さえ上がればなんでも良かった」と言ったところでしょうか。そして、株価が上がったら、まるで目標が達成されたかのような空気になって、林さんがおっしゃるような肝心な議論はもはや忘れてしまっている……。
 しかし、株価が上がって大喜びかも知れませんが、経済指標を見れば株価だけが異常に上昇していて実体経済がついてきていないのは明白です。

ECB(欧州中央銀行)や米国のFRBも大規模な量的緩和に踏み込んでいるわけですが、中央銀行が株や不動産まで買っているのは日銀だけです。つまり、日銀の量的緩和は世界的に見てもまさに異次元の金融緩和ということです。
 異次元緩和政策は本来、「出口から出て」初めて評価されるべきものです。では、満期のない株や不動産の出口とは何か。売却しかありません。しかし、10兆円を超えるETFを市場で売却するのは極めて困難でしょう。世界の金融史の観点からみても人類未踏の領域に達しており、ぜひここをうまく乗り切るべく出口戦略の議論を練り上げてもらいたいですね。

拙著の中で詳しく書きましたが、これほどのリスクをとれば“短期”的にうまくいくのはある意味当然です。けれど、出口から出られて、異次元緩和を止めても株高になっているという“長期”的な目標を達成できていなければ意味がありません。政策のコストがリワードに合っているのかどうかは、出口から出て初めてわかる話です。足元で、株価が上がった、成果が出たと喜ぶのは時期尚早。“行きはよいよい、帰りはコワい”の世界ですよ。

日銀はオープンエンドでどんどん国債などの資産を買っている状況ですから、我々は帰途(出口)についたわけではありませんし、予見できる未来に帰途(出口)につけるのかどうかさえわからない状況なのです。

そもそも、現在の株高がすべて異次元緩和の成果なのかどうかも疑問です。というのは、安倍政権の発足自体が2011年3月に起こった東日本大震災後の循環的な景気のどん底の時期で、自律的に回復しはじめるタイミングだったからです。ですから、何も特別なことをしなくても、通常の金融政策でそこそこの株高になったのではないでしょうか。

――では、日銀はその「出口から出る」ことを達成できるのでしょうか? できるとしたら、どのような戦略をとればよいとお考えですか?


林 難しいと言わざるを得ません。景気が良いと言われている米国ですら出口から出られないで苦しんでいるからです。米国では、このような状況がイーグルスの名曲の「ホテル・カリフォルニア」の“チェックアウトはいつでもどうぞ、でもここから出ていくことはできませんよ”という歌詞に例えられています。テーパリング(量的金融緩和の縮小)でチェックアウトはしたのだけれど、正常化へ向けての“出口”の利上げにはなかなか踏み込めない。なぜなら、利上げしたら株価を大きく下げてしまうかもしれないからです。共和党の圧力さえなければ利上げしたくないというのがイエレン議長の本音でしょう。市場コンセンサスと異なりますが、私はFRBは利上げはできないと考えています。


松村 私も同意ですね。FRBは、利上げして市場を混乱させた結果、QE(量的緩和)に逆戻りさせられるのをびびっているのでしょう。けれど、逆にここで正常化に少しでも踏み込めなければ、永遠に正常化できないのではないかと市場に侮られる。さらに、株価がどんどんバブル化し、最後には大きな危機を生みかねないということもイエレン議長は理解しているはずです。


林 そのジレンマに苦しんでいるように思えますね。


松村 ええ。最近の米国株は、経済指標が良く好景気だと、かえって売られる傾向があります。それは利上げの可能性が高まるからなのですが、逆に言えば、いかに金融緩和に依存した相場となっているかを示しています。「ホテル・カリフォルニア」は麻薬中毒のことを歌っているという説がありますが、資産価格が金融緩和によって吊り上げられてしまった結果、金融緩和という麻薬の中毒になってしまっていると言えるでしょう。


林 なるほど、麻薬中毒ですか。刺激的な表現ですが、その通りかもしれませんね。


松村 しかも、日本は“出口”の見えない、米国よりもはるかにアグレッシブな緩和政策を行なっているわけですから、深刻な麻薬中毒患者への道を歩んでいるわけです。4月16日の「フィナンシャル・タイムズ(アジア版)」によれば、中国の李克強首相にまで「量的緩和が行われているうちは、すべてのプレーヤーが大きな海の中で浮かんでいられるかもしれない。しかし、量的緩和が取りやめられた時に何がおきるのか、現時点で予測することは難しい」と、量的緩和政策の危険性を指摘されてしまいました。株価が上がって成果が出たと喜ぶのは安易かつ短視眼的な議論である。これは、世界の有識者の共通の見解と言ってよいかもしれません。