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『進撃の巨人』はなぜ売れたのか?:ウォール・シーナに守られた既得権益者たち|日本人が知らない本当の世界経済の授業|ダイヤモンド・オンライン

人気のあるゼミは、たいがい決まっている。面接で教授には、「教授の研究分野に興味があって」とみんな言うかもしれないが、本当に勉強したい学生なんていない。実際には、教授がテレビに出るような有名人で、レジュメで自慢げに書けたり、ゼミ生を有名企業に送り込んでいて、その引っ張りがあるので就職に有利だったりという具合だ。

スマホを取り出しLINEを開いて、中高から一緒の親友の沙織にチャットをした。


絵玲奈 ゼミ落ちちゃった
沙織 まじで。それってあり得なくない?
絵玲奈 ありえないけど、あり得た

沙織 まだ定員割れのゼミってないの?
絵玲奈 ある
沙織 どこ?
絵玲奈 内村ゼミ

「内村教授。数理経済学専攻。MITのPh.D.かぁ」


絵玲奈はつぶやいた。そして、内村教授のメガネをかけて、ボサボサ頭で、40代後半のバブル経験世代のくせに、いつもダサい服装のオタクっぽい姿を思い浮かべた。


内村教授の担当する数理経済学の講義は、ご多分にもれず自分の書いた著作が教科書だが、大学生のレベルでは難しすぎる内容で、学生がついて来れるような内容ではなかった。とはいえ、講義は出席さえしていれば単位をくれるという楽勝講座でもあるので、とにかく単位が欲しいものにはそれなりに人気がある。しかしゼミに関しては、あえてオタクな教授と数理経済学を勉強したいなんて酔狂な学生は過去に存在せず、ずっとゼミ生がいない。となると就職活動で引っ張ってくれるゼミの先輩もいないわけなので、ますます人の足が遠ざかる状態だ。


そんなゼミに女の子が1人で、オタクな教授と差し向かいでゼミをやる、しかも意味不明な数理経済学。それが2年間。
「あり得ない……そんな大学生活は……」と絵玲奈は身震いした。

「わかりました。この際なので、とりあえず数理経済学は一切やめましょう。そのかわり、これからの未来のお話をしましょう。世の中を神様が見るように上から大きく見て、世界で何が起きていて、今後どうなっていくのか。こうしたことを、ものすごくわかりやすく勉強していくのはどうですか。見識が広がって、新聞やニュースの意味がわかれば、就職活動の面接でも気の利いたことが言えるようになると思いますが……」

「じゃあ、さっそくですが、今日はこのへんにして、次回までに『進撃の巨人』を読んできてください」

「私は主人公のエレンの“一生壁の中から出られなくても…飯くって寝てれば生きていけるよ…でも…それじゃ…まるで家畜じゃないか?”というセリフと、エレンの友人のアルミンの“たしかに、この壁の中は未来永劫安全だと信じきっている人は、どうかと思うよ。100年壁が壊されなかったからといって、今日壊されない保証なんか、どこにもないのに…”というセリフが、大きなヒントだと思っています」

「さらに言うと、人類が巨人から身を守るために壁が三重になっているのです。一番内側で安全なウォール・シーナには、王政府や裕福な人間が住んでいて、主人公たち若者は一番外側で最も危険なウォール・マリアの内側に住んでいる。この設定が、現在の格差や既得権益に不満を覚える若者の潜在意識をとらえているのではないでしょうか」

「よかったです。人々が自然に行動した結果を観察すると、世の中の真実が見えてくるものなのですよ。マンガが売れる、というのはその一例です。では、さきほど言った《漠然とした不安》って、いったい何から生じているか考えてみましょう。どうでしょうか? 何か思いつくことはありませんか?」

「なるほど。やはりみなさん肌感覚で、なにかヘンであることは感じていて、このままで大丈夫なんだろうかと不安な部分はあるんだけど、日々暮らせてるから、まあいいかって感じということですね。わかりました。もったいぶってもしょうがないので、結論から言っちゃいましょう。なぜ、みんな《漠然と不安》なのかというと、まったく《新しい時代》にいるのに、今までどおりに生きようとする既得権益層が世の中を歪めているからなのですよ」

「それって、具体的にはだれなんですか? お金持ちとか政治家ですか?」
「いいえ、違います。お年寄りやこれからお年寄りになろうとする方々、普通のおじいさんやおばあさんたちです」

「《新しい時代》ですか……そう言われるとそういう気もしますが……」
教授の言いたいことがよくわからずに、絵玲奈は適当に相槌を打った。


「それも500年に一度。いや、数千年に一度の《人類が初めて経験》する……」