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記者:資源事業を拡大してきた経営判断に誤りはなかったのでしょうか?
社長:未来を想定するには、常にその時点の状況をベースに決断していく以外にありませんが、そのつどの決定が間違っていたとは、全く思っていません。
ただ、教訓として、思っていた以上に資源価格がぶれた場合でも赤字にならないように、非資源事業とのバランスを見直すことが必要だと思います。今は大体、投融資残高で資源事業が3兆円、非資源事業が4兆4000億円。資源事業はこの水準を維持しながら、中身を収益性の高い事業に入れ替えていく。一方で、非資源事業は2割くらい積み上げたいと考えています。

記者:資源事業を縮小する考えはないわけですね?
社長:全然思っていません。ただ、中身は見直して、「LNG・天然ガス」「原料炭(鉄鋼の生産に使われる石炭)」「銅」の3つに集中していきたいと考えています。ほかの資源と比べて、業界や商品の性質を理解できているからです。資源価格は、2020年ごろには一定のところまで戻ってくるだろうと思っていますが、価格の見通しを読み違えたことで赤字になったので、想定が外れても経営できるようにすることを第一に掲げています。

垣内社長は、昭和54年の入社以来、一貫して「非資源」の分野を歩んできました。主に畜産や飼料の事業を担当。社長に就任する前までは、食料の生産や卸売のほか、三菱商事筆頭株主の大手コンビニチェーン「ローソン」などの小売り事業を担当する「生活産業」部門の責任者でした。

記者:資源以外の事業を拡大していくうえで重視する分野は?
社長:重点分野に掲げているのは、「食品原料」「ライフサイエンス(食品添加物など)」「消費財製造(食品や衣料品など)」「リテール(小売り)」「自動車」「電力」それに「不動産開発」です。こうした分野は、すでに私どもの事業が成長過程にあり、経営資源を投入すればするほど成長するという場面にきています。


記者:なかでも特に成長を見込む分野は?
社長:例えば、食品原料は環境へ配慮した原料が求められるなど、価値観が変わってきています。こうした原料をベースにした製品が消費者に支持されます。また、海外で児童労働や森林伐採をして生産された原料を使わないとか、恵まれない農家を支援するといった付加価値が有効になっていくと思っています。コンビニは、まだ物販が中心ですが、配送やチケット販売、医療や介護などといったサービスで、ビジネスモデルがさらに進展していくと思います。三菱商事グループ全体で人を出して、ローソンのビジネス強化のスピードを上げていきたいと考えています。

大手商社はかつて、商品の輸出入や国内取引を仲介する「トレードビジネス」で収益を上げていましたが、1990年代以降、天然資源や食料、ITなど幅広い分野で事業に投資することで、生産から販売までのさまざまな段階に関わる「事業投資」へとビジネスモデルを変革してきました。
三菱商事が、垣内社長の就任にあわせて作成した今後3年間の「中期経営戦略」では、投資だけにとどまらず投資した事業の“経営”に積極的に関わっていく方針を打ち出しました。

記者:中期経営戦略で“事業の経営”に深く関わっていく方針を打ち出していますが?
社長:これから各事業を再評価していきますが、1番のポイントは、三菱商事が主体的に事業に関わって機能を果たし、利益を上げられるかどうかです。
結局、重要なのは人なんです。三菱商事の事業を時代のニーズに合わせて変化させてきたのは社員なんですね。大きな変化に対応するには、今まで以上に変化への対応力がある人材を育成する以外ない。そして、事業に主体的に挑んで、みずから考えて企画して答えを出す。つまり、“経営”するということが重要だと思います。それを「事業投資」から「事業経営」へと申し上げています。


記者:三菱商事だけでなく、商社業界は今後、変わっていくのでしょうか?
社長:「商社が」と、総称して言える立場にはありませんが、三菱商事だけを見ても、今日までいろいろありましたが、変化が激しくなればなるほど成長したと思っています。
「商社の本業は何か」と言われても、それはないんですね。自分たちが時代に応じて仕事を作っていくという、そういうタイプの会社なんです。極めて難しいですが、逆説的に言えば、変化への対応力はあるはずだと確信しています。

資源価格の低迷がいつまで続くのか、不透明ななかにあって、商社業界は転換点を迎えています。垣内社長が掲げる「投資先の経営に深く関わる」戦略を進めるには、社員が投資先の事業の方向性をみずから考え、実行していくという、より幅広い能力が求められることになります。初めての赤字という逆境をバネに、商社の新たなモデルを切り開いていくことができるか、引き続き注目していきたいと思います。