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「私はよく理解できていなかった。特に初期の論文では楽観的過ぎた。中央銀行がデフレを克服できると決意して金融緩和策を行うことに、私は確信を持ち過ぎた」


 米連邦準備制度理事会FRB)の前議長で、著名な経済学者であるベン・バーナンキ氏は、5月24日に日本銀行内で開催された講演で、そう語った。


 彼はかつて、日本のインフレ率が低いのは金融政策が誤っているせいだと、日本銀行を激しく罵倒していた。しかし、ここにきてその論調は様変わりを見せている。「他の見解に忍耐を示さなかった」と反省の弁を述べていた。


 この4年間の日銀は、バーナンキ氏が推奨した政策を全て取り込み、さらにそれを大胆に実施してきた。それにもかかわらず、日本の欧米型コア消費者物価指数(「総合」から食品とエネルギーを除いたもの)は、現在マイナス圏に戻ってしまっている。


 以前のバーナンキ氏は日本経済の構造的な問題に関心を示さなかった。ところが、今回は中立金利水準(完全雇用が実現され、かつ物価が安定している金利水準)が低下している中では、金融緩和策の効果が以前よりも得られにくくなっていると、日本経済の構造問題にも言及していた。


 また、今後の追加緩和策に関しては、「過去数年用いてきた手段は限界にぶつかっている。特に金利は、短期金利だけでなく、全般的に事実上の下限に近づいてしまっている」と指摘した。人々のインフレ予想を高められれば実質金利を引き下げられるが、「インフレ予想は低いままだ」と、その難しさにも言及している。


 ただ、講演の会場でバーナンキ氏のこうした一連の発言を聞いていた日銀関係者の胸中は、複雑だったに違いない。


 というのも、黒田東彦総裁率いる現在の日銀の金融政策は、バーナンキ氏を“教祖”の一人とするリフレ派の考えに沿って実施されてきたものだからだ。そのため、“教祖様”に素直に「ざんげ」をされてしまうと、日銀としてはこれからどうしたらいいのかという問題が生じる。


 今後の日銀が取るべき方針についても、バーナンキ氏は講演内で言及している。インフレ目標の達成を目指す姿勢を維持しつつ、必要になった場合には財政出動を金融緩和策と協調させながら拡大させるべきだと指南した。


 もっとも、インフレ目標の実現は遠くても、世界経済の好調さに支えられて日本経済は現在良好な状態にある。近々にそういった政策が導入されることはなさそうだ。しかし、海外経済が失速してきたときには、「ヘリコプターマネー」やクリストファー・シムズプリンストン大学教授の「物価水準の財政理論」(FTPL)なども含めて、財政赤字を拡大する議論が活発化しそうだ。


 とはいえ、日本経済の根本的な問題は、人口減少や脆弱な社会保障制度、日本企業の国際競争力低下などといった課題の中で、多くの日本国民が将来に対して強い不安を抱いていることにあると思われる。


 そのため、バーナンキ氏の発言を聞いて、「打ち出の小づちはまだあるらしい」と期待するのではなく、構造的な課題に向き合っていく必要がある。なぜなら、海外の著名な経済学者による日本への助言がまた誤っていたとしても、彼らは事後的に「楽観的過ぎた」と「ざんげ」すれば済んでしまうからである。

#リフレ#アベノミクス#エピゴーネン