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【永守重信】「東大や京大出身のトップ研究者は企業に必要なのか?」

 今の日本の大学はマーケットが欲する人材を輩出できていない。多くの企業は、英語力や会計力などを即戦力として求める。だが、英語も十分にできないのに第二外国語を学ばせたりする。経済学部を出たのに簿記も分かっていない。こうした教育体制そのものに問題があるのではないか。


 出身大学の名前なんて、採用する企業には関係ないことだ。実際、日本電産の役員は必ずしも高学歴というわけではない。企業経営に偏差値が関係ないということは、当社のデータが如実に示している。


 東京大学京都大学は、ノーベル賞を受賞するようなトップ研究者を養成するだろう。だが企業にとって、そういう人材がどれだけ必要だろうか。私は東大や京大に対抗する人材を育成しようとは思わない。ただ(国際的な指標である)世界大学ランキングでは、上にいきたい。


 教育では、人間力の育成を特に重視したい。人の上に立つためには、人の心をつかむことが大事。そして、いかに競争に打ち勝ち、いかに社会に貢献ができるか。私は日本電産の創業以来、そうした点を重視した社員教育を続けてきた。同じことを大学でもやる。


 若い世代に必要なのは自信を持つことだ。自信が持続できる環境で、学び、働くのが一番良い。私は小学生の頃、理科の授業でのモーター製作で教師に褒められたことがきっかけで、モーターの会社を興そうと考えた。その経験が私の大きな原動力となっている。学生にはそれぞれが得意な分野で成長させてあげたい。


 今の日本社会は、受験などで一度失敗すると、その後の人生が全て駄目になってしまう。だが挫折した経験を持つ人間は強い。人の心の痛みをよく分かっているからだ。


 私は貧しい農家に生まれ、奨学金を使って職業訓練大学校(現職業能力開発総合大学校)に入った。ここでトップになったことが自信となり、ここまで来ることができた。もし私が普通の家庭に生まれていたら、大手企業で勤めた末に今ごろ引退していることだろう。


 だからこそ、私には語るべきことがある。大学の学長や教員たちも、学生に夢や理想をしっかりと語ってほしい。全ての物事はそこから始まっていく。

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