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 中国最大の独立系(非国営)自動車グループ、浙江吉利控股集団ジーリー・オートモーティブ・ホールディング・グループ=以下、吉利)は2月、「ドイツのダイムラーAGが発行する株式の9.96%を取得した」と発表した。この結果、吉利はダイムラー筆頭株主になった。

 今回、吉利が取得したダイムラー株は“株式市場に出回っている株”を“通常の手続き”によって買い集めたものである。かつて吉利はダイムラーへの資本参加を打診したが、そのときはダイムラー側が断っている。しかし吉利はダイムラーへの資本参加を虎視眈々(こしたんたん)と狙っていた。


 吉利がダイムラー株の取得に使った資金は総額で90億ドル(約9600億円)といわれている。これが吉利の手持ち資金なのか、それともバックに控える銀行団の資金なのか、中国政府なのかは明らかになっていない。同時に、吉利が取得したダイムラー株がすべて個人投資家の所有だったのか、それとも機関投資家から買い取ったものなのかも明らかにされていない。


 一方、昨年末時点でのダイムラー筆頭株主クウェート投資庁(KIA)だった。現在でも約6.8%の株を保有する。約3.08%を保有するルノー・日産アライアンスがこれに続き、残りの約90%のうち機関投資家保有する株は約70.7%、個人投資家保有率は19.4%という状況だ。

 欧州の自動車メーカーは、BMW、ポルシェ、プジョーフィアット・クライスラーのように創業家あるいはその一族が筆頭株主の座に君臨し絶対的な議決権を保有している例と、VWフォルクスワーゲン)やルノーのように政府または自治体が大株主である例など、株主事情はいろいろある。その中でダイムラーは安定した大口株主が不在という状態が続いていた。


 かつてダイムラー・ベンツ時代に筆頭株主だったドイツ銀行は、ダイムラークライスラーの合併後、2005年に大量の株を手放した。代わって筆頭株主の座に就いたのは、アラブ首長国連邦UAEアブダビの政府系投資会社であるアーバル・インベストメンツであり、09年3月に9.1%を握った。このときはダイムラーが9648万株の新株を発行し、アーバル・インベストメンツの影響力が大きくならないよう対抗策を講じた。ダイムラー側が安定株主を欲した結果だった。アーバル・インベストメンツは、同じくUAE政府の資源エネルギー系ファンド、国際石油投資(IPIC)が運営。石油で得た資金を有望な事業に投資する会社である。


 その後、10年4月にルノー・日産アライアンスとの間で3.08%の株式持ち合いを合意したが、アーバル・インベストメンツは12年10月までに、保有していた全ダイムラー株を売却した。「投資戦略の見直し」が理由だったが、これにより筆頭株主はKIAとなり、2位はそれぞれ1.54%を出資するルノーと日産になった。筆頭株主と2位の株主2社を合計しても10%に届かない状態は、敵対的買収を防止するという意味では弱い体質である。その状態が5年以上も続いた。

 吉利は10年8月にボルボ・カーズをフォードから買収するとともに、ロンドン・タクシー・インターナショナル(LTI)の経営権を取得。昨年5月にはマレーシアのプロトンに49.9%を出資して筆頭株主となったほか、プロトンが所有していた英国ロータス・カーズの株式51%も取得した。さらに、昨年末には大型商用車メーカー、ABボルボに対する出資についてスウェーデンの投資会社と合意している。いずれABボルボ筆頭株主になるもようだ。それにしても吉利のグループ拡大意欲は旺盛だ。チャイナマネーは、どこまで世界の自動車産業に広がっていくのだろうか。


 そしてダイムラーへの資本参加。10%近くを握るとはいえ、欧州の商慣習ではせいぜい取締役をひとり送り込める程度の影響力であり、吉利側も「ダイムラーの会社規定や企業管理の慣習を遵守し、企業文化とその価値観を尊重する」というコメントを出している。いまのところ吉利がダイムラーに出資する真の狙いは不明である。


 17年の吉利グループの売上高(暦年)は、傘下のボルボ・カーズロータス・カーズなどを含めて4兆5800億円。一方、ダイムラーは売上高22.3兆円。企業規模では圧倒的にダイムラーが大きい。しかし、吉利には中国の習近平国家主席を後押しする“浙江省閥”の資金援助があるとも伝えられている。