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【正論】京都大学名誉教授・加藤尚武 金融危機に“渋沢精神”を思う

 いまこそ政治は、目先や見かけの経済効果ではなく、若者に希望を、高齢者に安心をもたらす実質的な重みのある政策を提起してくれなくては困る。そのための負担は引き受けてもいいという緊迫した気持ちを国民の多くが抱いているのに、上滑りした選挙目当ての論議が国会で続くのではあれば、経済危機は社会危機へと深まるだろう。

不況対策として、有効需要の拡大で雇用機会を作り出すために大量の資金投入が検討されてきた。それが「焼け石に水」という結果を意味することをはっきりと知りながら、その議論の枠組みを変えようとしない政治家と経済学者に、もっと深い地盤の上に議論を組み立て直してくださいと言わざるをえない。

金融市場の規模が大きくなれば、市場の自己調整機能が高まるように、透明化や監視、再調整などの副次的な機能が連動するようになっていかなければならない。実際には「自由化」によってバブルができやすくなった。

 今、渋沢の精神を呼び戻すとしたら、次のような姿勢が求められる。金融危機で職を失う人とともに国民として苦しみを分かち合う、そのために贅沢(ぜいたく)をしないで、将来に備えるような生産的な投資をすることである。職を失う人を傍らに置いて、「皆さんが浪費をすれば経済が活性化されます」と説くことは、国民の気持ちをバラバラにしてしまう。困っている人を「見て見ぬふりをする」という習慣を植え付けてしまう。

 政治家の第一の課題が、国民の気持ちを一つにまとめて難局に対処することであるという大原則を忘れてはならない。