ケインズ主義、ケインズ学派が何を示すのかは、実は議論が分かれるところなのですが、ここでは筆者の独断で、不況の時には財政支出の拡大や減税、政策金利の引き下げ(総需要管理政策)が、景気の回復に役立つとする考え方であるとします。
80年代半ばには、貨幣供給量とインフレの関係は、マネタリストが考えるほど安定的ではなかったため、貨幣供給量のコントロールで金融政策は事足りるとする考えは否定されましたが、財政政策が有効ではないという考え方は、今回の金融危機に至るまで、学会のみならず根強く実務家の間でも影響力を持ちました。
実はケインズ経済学に基づくモデルでも、貿易や資本移動が自由な場合、財政政策は有効ではないことが分かっていました。また、政策の立案、実施に伴うタイムラグの存在(注2)も強く認識されたため、景気対策としては財政政策ではなく、主に金融政策を用いるべきであるという考え方が支配的になったのです。
一方で、経済政策運営上の選択肢から、実際に財政政策を落とした主要国はありませんでした。不況期には、何らかの形で財政による刺激策が実施されたのです。米国においても、例えば2001年の不況期には主に減税による景気刺激が実施されました。
マクロ経済学において学会と実務の橋渡しとなるのが、財政政策・金融政策の効果の推計です。そのために政府のエコノミストが用いるモデル(注4) は、学会で用いられている動学的確率的一般均衡モデルではなく、今でも70年代に作成されたものとよく似た構造を持つマクロ計量経済モデルです。
米国CEAの委員長も務めたハーバード大学教授のグレゴリー・マンキューが嘆くように、新古典派やニューケインジアンの研究は、経済政策に責任のある実務のエコノミストに全く影響してこなかったと言えるでしょう。マンキューは同時に、学部レベルでの講義内容にも全く入ってきてないと語っています(注5)。
現在、急に各国で財政刺激が必要と言われるようになったのは、タイムラグの問題や長期の問題を考えても、短期の景気後退に対応する必要が出てきているためです。
さらに、グローバル化が進んだ現在、財政金融政策の効果は為替レートの変動を通じて流出・流入してしまうため、1国で行うのと、国際協調を通じて行うのでは、全く異なることが分かっており、財政出動の国際的な協調が必要なことも、あえて声高に各国首脳が発言する理由となっています。
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20090413#1239619420
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20090428#1240926581
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