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物価下落の実態は相対価格の変動 真に危惧すべきはデフレよりインフレである! | 野口悠紀雄 未曾有の経済危機を読む | ダイヤモンド・オンライン

 まず注目すべきは、以下で見るように、構成項目によって価格動向には大きな差があることだ。教科書的な意味の「デフレ」とは、すべての財・サービスが一様に低下することである。つまり、相対価格は不変で絶対価格が下落する状況が、「デフレ」である。しかし、現在生じている物価下落は、これとは異なるものだ。

 こうした区別がなぜ必要かと言えば、必要な対応が異なるからである。デフレは、貨幣供給量が過小であるなどのマクロ経済的要因によって引き起こされる。したがって、それに対処するには、貨幣供給量の増大などのマクロ政策が必要だ。それに対して、相対価格が変化する場合に必要なのは、経済行動を変えることである。相対価格の変化を伴う物価動向の変化は、食い止めるべきものではなく、利用すべきものなのである。

 つまり、サービスの価格がほぼ不変であるのに対し、工業製品、なかんずく耐久消費財の価格が下落しているのである。

 これらを見ると、冷蔵庫や洗濯機のような家庭用耐久財、および光熱費が大幅に下落していることがわかる。テレビは33%、パソコンは50%をそれぞれ超える下落だ。エレクトロニクスのメーカーが苦境に陥るのは当然のことだ。

「工業製品の価格低下」という現象は、いまに始まったことではない。90年代からの長期的な傾向だ。

主要な原因は2つある。冷戦の終結とITの進歩だ。

 冷戦終結で労働力が急増したから製造業の製品価格は下落した。そして製造業の製品は国境を簡単に越えられるから、価格低下が世界中に広がったのである。

 なお、要素価格均等化定理(*注)によって、賃金も世界的に平準化する。したがって、先進国での製造業の賃金は下落せざるをえない。

 相対価格の変化は、経済行動の変化を要求する。

 供給者の立場から言えば、これと逆に、工業製品をつくることをやめて、サービスを売るビジネスモデルに転換すべきである。

 こうして経済全体の産業構造が変わるべきだった。日本の失敗は、それができなかったことだ。

これだけ大きな変化がありながら産業構造が変わらなければ、おかしい。日本はまさにそのおかしい状態に陥っている。

 以上で述べたことからわかるように、「よいデフレ」とか「悪いデフレ」という区別はない。立場によって評価が違うだけである(ちなみに、為替レートの変化に関しても、「よい円高」とか「悪い円高」ということはない。立場によって評価が違うだけである)。

 日本の場合に問題なのは、製品をつくる立場の考えだけが強く主張されてきたことだ。

 その結果、経済政策が、物価下落を抑止する方向にバイアスをもってしまった。つまり、金融緩和と円安というマクロ政策によって、中国からの安い輸入品に対抗しようとした。しかし、食い止められず、賃金も下がった。

 いま「デフレだから金融緩和」というのは、これを繰り返すことになる(ただし、外国で金利を下げたので、もうかつてのような円安にはできない)。

 そして、工業製品の価格低下は、加速している。これについては、円高が進行したことの影響も大きい。

 こうした状況で必要なのは、価格動向の変化に正しく対応することだ。

 最近の物価動向に関するいまひとつのポイントは、エネルギー価格の推移である。とくに、石油価格の今後の動向だ。

 消費者が心配すべきは、デフレでなく、インフレなのである。

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