「画家なら絵が残る。小説家は書いたものが活字になって残ります。しかし、きょう、ぼくがやった芝居は、きょうでおしまいです。だから、きょうの芝居にいのちをかける。その一瞬のいのちが役者の色気というもの」(『凡談愚言』)
日本人を演じ続けた寛美の芝居論だ。彼は「きょう」にかけるために新聞を精読した。株価によって好調業種に的を合わせた芝居をつくり、石油や鉄の価格動向から景気をにらんだプログラムを考えるためだったという。
寛美の銘は「役者は一人でも見てくれはるお客さんがあるかぎり、孤独とは違う」。それからもう一つ、「負け馬にこそ、味がある」だった。