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セクハラ事件と会社法350条

1 ビル管理会社に勤務する知的障害者に対するセクシュアル・ハラスメントについて,これを行った上司不法行為責任及び同社使用者責任が認められた事例

2 ビル管理会社の代表取締役が,上司からセクシュアル・ハラスメントの被害を受けた従業員から苦情を受けたにもかかわらず,必要な措置を講じなかったことについて,同社会社法350条の責任が認められた事例

大阪地方裁判所 平成21年10月16日(平成20(ワ)5038)(pdf)

事案の概要

本件は,被告会社の従業員であった原告が,配属先の業務責任者である被告Bからセクシュアル・ハラスメントを,専任支援者である被告Cからパワー・ハラスメントを受け,休職を余儀なくされたと主張し,被告B及び被告Cに対しては,民法709条に基づき損害賠償を求め,被告会社に対しては,民法715条1項又は会社法350条に基づき損害賠償を求めるとともに,休職時から退職時までの賃金の支払を求める事案である。

(原告の主張)
被告B及び被告Cの前記不法行為は,職場において行われ,事業の執行についてなされたものであるから,被告会社は,両被告の使用者として民法715条1項の責任を負う。また,Hは,原告が平成19年4月に被告Bのセクシュアル・ハラスメントと被告Cのパワー・ハラスメントを訴えたにもかかわらず,これらについて十分な調査を行わず,原告の誤解に過ぎないと結論づけ,さらに,前記不法行為を行った被告B及び被告Cを配置転換しない一方で,原告に対し,職場復帰の条件として配置転換を求めた。被告会社は,このようなHの業務上の言動に現れた被告会社の代表取締役Jによる不法行為について,会社法350条の責任を負う。

争点に対する判断

使用者は,被用者に対し,信義則上その人格的利益に配慮すべき義務を負っており,セクシュアル・ハラスメントに起因する問題が生じ,これによって被用者の人格的利益が侵害される蓋然性がある場合又は侵害された場合には,その侵害の発生又は拡大を防止するために必要な措置を迅速かつ適切に講じるべき作為義務を負っているものと解される。しかるに,証拠(証人H,同Q,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告が被告会社に対し本件セクシュアル・ハラスメントを訴えたにもかかわらず,Hは,被告Bから簡単な事情聴取をしただけで,セクシュアル・ハラスメントの存否を確認しないまま,同被告に対しセクシュアル・ハラスメントと誤解を受けるような行為をしないように注意したにすぎず,Jは,被告会社の代表者として,H等の担当者に対し,本件セクシュアル・ハラスメントについて十分な調査を尽くさせないまま,適切な措置を執らなかったことが認められるのであって,Jのこのような対応は,上記作為義務に違反するものといわなければならない。
そして,原告は,Jのこのような対応によって,セクシュアル・ハラスメントが生じた職場環境に放置され,人格的利益の侵害を被ったことが容易に認められるから,被告会社は,会社法350条に基づき,Jの上記対応(作為義務違反)によって原告が被った損害を賠償する責任がある。

民法

不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(使用者等の責任)
第七百十五条  ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2  使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3  前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。


会社法

(代表者の行為についての損害賠償責任)
第三百五十条  株式会社は、代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。

(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
第四百二十三条  取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
第四百二十九条  役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

『リーガルクエスト会社法』
P229

この責任は,不法行為責任ではなく,三者を保護するために定められた特別の法定責任であり,第三者が役員等の不法行為責任を追及することも妨げられない。

三者は,任務懈怠について役員等の悪意・重過失を証明すればよく,自己に対する加害について悪意・重過失を証明するまでもない。

『模範六法』
P1500

第三五〇条

株式会社の代表取締役が、その職務を行うにつき不法行為をして他人に損害を加えたため、会社がその賠償の責めに任ずる場合には、代表取締役も個人として不法行為責任を負う。最判昭49・2・28判時七三五−九七)