「書のように鍛錬をつんで出来あがる芸術にあつて、先ず第一に師の指導によって書の根本精神なり書法の原理を十分会得すべきものである。
そうしている内に次第に師法を脱して自己の理念を確立させて自己の風が出来上がるものなのである。
かように、師風に似ることが最初の道ではあるが、終局の道ではない。
どこまでも、自分の工夫を加えて、常に新しい自己を発見、創造につとめてこそ芸術といわれるのである。個我に撤してそこに新が流動してゆくのである。
しかし、個性を発揮しようとつとめることの余り、自己満足、自己陶酔に陥つていい加減の所に安住したり、妥協したりすることは厳に戒むべきことである」