大前研一 福島第一原発で何が起きているのか――米スリーマイル島原発事故より状況は悪い
現状は福島第一原発に関して全てを放棄して現場を離れるしかない。報道されていないが、中央制御室付近では放射能が高く、作業が極めて危険な状況にある。つまり、制御できないだけでなく、制御しようと人が近づくことさえできない状態にあると見るのが妥当だ。
この後は、最悪の炉心暴走になって圧力容器が壊れても、大半の核分裂生成物が格納容器内に閉じこめられることを祈るしかない。そういう深刻な状況になっていることをまず理解すべきである。
これ以上犠牲者を出さないためには現場を放棄し、空からホウ酸を含んだ水の散布などをトライするくらいしか方法がない。恐らく致死量に達していると思われる原子炉周辺に作業員を送り込むことは良識ある判断とは言えない。
しかも最近の原発オペレーターは「マニュアル」で育っている。言い換えれば、今回のような「マニュアル外」の異常事態にはどう対処したらいいのかわからない。そのため初動の遅れが事態を深刻化させている側面も否定できまい。
また、46年前の原子炉を設計した人やその後のいろいろな追加工事をした経験者を一堂に集めなくてはならないが、今回東電はそうしたことをやってない。想定外のことを考えるには原子炉を生み出した頃の人を集めるしかない。
こうした状況は、炉心溶融の後に爆発して放射性降下物が広範囲にまき散らされた旧ソ連のチェルノブイリ発電所事故(1986年)よりはマシだと言えるが、炉心溶融が起きた米スリーマイル島原子力発電所事故(1979年)よりも悪い事態だ。
今後、日本の重電メーカーは海外に原子力発電プラントを売ることができなくなるだろうし、それよりも第一に日本で新しい原発を建設することすら難しくなると私は考えている。福島の第一原発は恐らく全て廃炉となるだろう。現に米国ではスリーマイル島原発事故の後は一つも原発は建設できていない。
さらに、国主導で進めている、使用済み燃料を加工したプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料によるプルサーマル計画も止まる。なぜなら、福島第一原発の3号機はプルサーマル発電だからだ。炉に海水を入れて冷やすということは、常識としては廃炉にするということである。つまりは「プルサーマルは凍結する」と宣言したに等しい。
今後、首尾よく原子炉内の熱を冷却して、その手際をいくら東電が喧伝したとしても、あの衝撃的な爆発映像を多くの国民が見てしまった以上、世論は新たな原発建設など許すまい。日本の原子力開発は事実上、終わったのである。
それほど今回の事故は本質的な問題を全て露呈させたモノである。アメリカもドイツも原発の建設が30年間なくなって、結局技術者が霧散してしまった。
となれば、家庭や事業所で使う電力を35%(日本の総発電量における原発の割合)減らすとか、家電製品は最低30%の省エネ性能をクリアしたものしか売ってはいけないといった対策をとる。あるいは、湯水のように電力を使用している国民の生活を改める。そうしたことが我々にできる目下の現実的な解決策ではないだろうか。
幸い日本経済は全く成長していないので、これはできない相談ではない。今回の反省から全ての原発を再点検し、必要な施設の付加をして生かせるものは生かす。しかし、新たな炉の建設や今回のような恐れのある炉は廃炉とするしかない。国民はその不便を「電気の節約」という行動で積極的に甘受するしかないだろう。