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ナンバーワン企業弁護士を激怒させた『東電救済法案』久保利英明「私はなぜ東電と本気で闘うことを決めたのか」

「俺の40年の弁護士人生はいったい何だったのか。日本をまともな国にしようと、1つ1つ手直ししてきたはずだったのに、今回の原発事故1件でそれらがすべて振り出しに戻った感じがする」

総会屋対策などを通じて上場企業の味方であり続けてきた剛腕弁護士が、放射能汚染の被害を受けた野菜農家や畜産農家などの代理人を買って出た。

久保利氏が真っ先に疑問に感じたのは「なぜ法的整理をしないのか」という点だった。

 与野党の議員に対し、法案をまとめた官僚たちは、法的整理をすると「被害者への迅速・適切な賠償ができない」「電力の安定供給ができなくなる」といった説明を繰り返していた。若いころから倒産法に通じ、多くの企業の破綻処理に携わった経験を持つ久保利氏から見れば、「まったくの嘘」がまかり通っていたのだ。

 「会社更生法は柔軟な法律で、裁判所さえ認めればかなり自由にできる。要はスキームの作り方次第。被害者への損害賠償が滞ることなどあり得ないし、電力供給が止まることなど考えられない」


 ところが、永田町も霞が関も「東電を生かせ」のオンパレード。法案の骨子は、大手銀行が作ったとされるスキームに経済産業省が乗っかり、海江田万里経済産業大臣(当時)が主導する「東電救済まずありき」の法案となった。


 久保利氏からみれば、地域独占にどっぷりと浸り、ガバナンスが利いていない会社に国民のカネをつぎ込むモラルハザードの最たるもの」だった。会社更生法が適用されれば、取締役はすべて退任となる。東電を存続させることはすなわち、経営陣を温存することに他ならない。

 いくつも企業不祥事を見てきた経験上、久保利氏には信念があった。企業の中に深く根を下ろしている不祥事の負の遺伝子を完全に断ち切らなければ、不祥事は必ずまた起きる。不祥事から立ち直った企業の多くは、それを断ち切るために取締役をすべて交代させてきた。証券不祥事に直面した野村証券などが一例だ。東電も役員をすべて退任させなければ、負の遺伝子は残り続ける、というのだ。ところが、現実は「役員は全員辞めろ」とはならず、そうした国民の声すら沸いてこない。

「東電は地方自治体にカネをばらまき、マスコミを手なずけて議論を封じ込めてきた。原発推進は国策だと言うが、誰がそれを決めたのか。ほとんど議論がなかった。議論をしない方がいい、というのは民主主義の否定だ」「政治、役所、メディア、裁判官がガッチリとスクラムを組んでいる」

「東電は地域独占を盾に、顧客も納入業者も、株主も、大銀行も、社員も押さえこみ、ステークホルダーが経営陣の言いなりになっている」

 7月末では代理人となった被害者の被害額は500億円程度だったが、被害がお茶や牛肉に広がるにつれ急速に増加。避難地域などの土地の買い上げが本格的に議論になれば、損害額は「数千億円から兆円単位に拡大していくだろう」と見ている。被害者は何万人になる分からない。米国で起きるような大規模な集団訴訟に発展する可能性も高い。