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【日曜経済講座】アベノミクス1年 円安・株高だけでは安心できない 編集委員・田村秀男 - MSN産経ニュース

量的緩和とは、中央銀行が継続的に大量におカネを増発することだ。「刷ったカネをヘリコプターからばらまけば」と思う向きもいるだろうが、それではお札の信用がなくなる。かつて革命家レーニンは国の体制を崩壊させる手っ取り早い方法は通貨価値の破壊だと、喝破したそうな。


 現実には金融市場を活用する方法をとる。中央銀行は金融機関から国債などの金融資産を買い上げる。金融機関はそのカネで株式を買えば、株価が上がる。銀行から融資を受ける消費者は住宅や車を買う。企業は株式市場から資金調達しやすくなり、設備投資を増やす。需要がこうして増える。他方、発行量が多い通貨の値打ちは、量の少ない通貨よりも落ちるので、通貨安となる。すると輸出が有利になる。通貨レートが安くなれば、物価が上がる。デフレはこうして止まるし、景気もよくなる、というシナリオだ。


 問題はその通りコトが運ぶかどうかだ。米国は2008年9月の「リーマン・ショック」後、現在までの3次にわたる量的緩和でドル資金を4倍も発行し、1930年代のような「大恐慌」は避けられた。景気のほうは遅々としながらも、次第に上向いている。だが、日本は米国とは金融構造が大きく異なる。


今年6月末現在、日本の家計金融資産の54%は現預金で、株式など証券資産は14%にすぎない。米国とは逆で株高による資産増効果は小さい。日銀の政策委員会の大勢は来年の消費者物価上昇率を消費税率引き上げの影響分を含め3%前後とみているが、銀行の1年定期預金の利率はたった0・025%。インフレ分を勘案すると家計資産はかなり目減りする。


 円安効果の波及も遅い。勤労者は3%前後以上賃上げがないとフトコロ具合は悪くなる計算だが、企業雇用の3分の2を担う中小企業の多くは今でも円安に伴う仕入れ原材料コストの上昇を販売価格に転嫁できない。大企業は別としても、賃上げも消費増税分の価格転嫁も容易ではない。家計資産と賃金の双方から見ても、消費税増税はかなりのデフレ圧力を呼び込む。


 グラフは昨年10月を100とした各種経済指標である。円安で株価はグンと押し上げられている。ところが、家計消費水準はアベノミクスの恩恵は及ばず、消費税増税前の駆け込み需要のある住宅を除けば1年前より悪い。株高による巷(ちまた)の高揚感は東京・銀座の欧州製高級車店をブランド物で着飾ったセレブでにぎわせてるだけのようだ。


 円安は進むが、一向に輸出が伸びず、貿易収支赤字額が増え続けている。量で見ると、輸出は東日本大震災後、最近に至るまで下落基調が止まっていない。輸入量は2010年初めから増加の一途をたどったあと、アベノミクス開始後は伸びが止まったものの、高水準のまま推移している。リーマン後、さらに東日本大震災後の超円高局面で、日本企業は海外生産拠点を増強し、そこからの部品・完成品の輸入を増やしている。日本からの現地への輸出型から、現地から日本への輸出型へとビジネスモデルを切り替えたのだ。

過去1年間ではっきりしたのは金融頼みの限界である。マーケットでは、今後の景気下降に備え、日銀の追加緩和を期待する向きが多い。日銀が動けば確かに株価は一時的に上昇しようが、欲深い海外の投資ファンドは次には日本株売りの口実を探すに違いない。それに追加緩和の余地は大きくない。

今後の焦点は「第2の矢」財政出動と「第3の矢」成長戦略だが、いずれも迫力不足だ。5・5兆円の経済対策では消費税増税による家計負担8兆円を補えない。ならば、残る成長戦略の重みが増すが、これまでの戦略案は官僚の作文にとどまり、成長を担うべき主人公たちの顔が見えない。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20131207#1386413076