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NHK 番組表 | 古典芸能への招待 京都南座顔見世大歌舞伎「元禄忠臣蔵」「義経千本桜」 | 京都・南座顔見世大歌舞伎から、市川中車および市川猿之助襲名披露演目の「元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿」と「義経千本桜 川連法眼館の場」をご紹介する。ご案内:石澤典夫
ひと場面・ひと台詞≪―11月の舞台から―『元禄忠臣蔵』「御浜御殿綱豊卿」作・真山青果≫ (ゴルドーニ  提言と諫言)

そちも多少は聖賢の書を読んだ者であろう。学んで思わざれば則ち罔しという。聖賢の言葉を何処に聞いた。

古人の言に、義を義とすべきはその発するところにありて、その終るところにあらずという、この金言を何と思う。

男子義によって立つとは、その思い立ちの止むに止まれぬところにあるのだぞ。義の義とすべきはその起るところにあり、決してその仕遂げるところにあるのではない。吉良の生首を、泉岳寺の墓前に捧さえすれば、内匠頭の無念、内匠頭の鬱憤はそれで晴れると思うのか。そちたちにして義理を踏み、正義をつくす誠あらば、たとえ不倖にして上野介を討ち洩らしても、そちたちの義心鉄腸は、決してそれに傷つけられるものではない。そちたちの今はただ、全心の誠を尽して、思慮と判断と智慧との全力を尽すべき時なのだ。思慮を欠き、判断に欠くるところあれば、たとえ上野介の首打っても、それは天下義人の復讐とは言われぬのだ。

右手に浅野家再興を願い出でながら、その左の手にて上野助を斬ろうとは、ただに公儀に対して憚かりあるのみならず、そは天下の大義を弄んで、天下の公道を誤るというものだ。

其処はさすがに内蔵助だ。(穏やかな口調にかえり)彼が今日島原伏見の遊里に浮かれ歩くのは、そちたちの目から見れば、或は吉良を油断させようための計略などと思おうが…俺の目にはそうは見ない。(と頭を振り、やや涙を目にうかべて)彼は今、時の拍子に願い出た、浅野大学再興に…その心を苦しめながら、あやまって手から離した征矢の行方を、淋しくじっと眺めているのだ。この内蔵助の悲しい心を、淋しい心を…そちたち不学者には察し得られる事ではないのだ。(一滴落涙)助右衛門、吉良は寿命の上、らくらくと畳の上で死んでも、汝ら一同が思慮と判断の限りを尽して、大義、条理の上にあやまちさえなくば、何アにあんな…ゴマ塩まじりの汚い白髪首など、斬ったところで何になる。そなえたところで何になる。まこと義人の復讐とは、吉良の身に迫るまでに、汝らの本分をつくし、至誠を致すことが、真に立派なる復讐といい得るのだ。

元禄忠臣蔵〈上〉 (岩波文庫)

元禄忠臣蔵〈上〉 (岩波文庫)

元禄忠臣蔵 下 (岩波文庫 緑 101-2)

元禄忠臣蔵 下 (岩波文庫 緑 101-2)