粉飾決算「東芝」が上場廃止にならない「奇妙な理屈」 - 磯山友幸
東証は、上場している銘柄を上場廃止にする基準を定めている。1つが「規模」。流通株式が極端に少なくなった場合や、売買高の減少、時価総額が基準以下になった場合などだ。市場(マーケット)では、「規格外のりんご」は扱わないという意味である。もう1つが上場企業としての「質」。決算内容を報告する有価証券報告書が提出できなかった場合や、虚偽記載つまりウソの報告をした場合、あるいは第三者として決算書のチェックをする監査法人が「不適正意見」や「意見差し控え」を出した場合がこれに当たる。「腐ったりんご」を市場に流通させるわけにはいかない、という発想だ。いずれも、市場で売買する投資家を守るために作られているルールである。
3月決算の東芝の場合、法定期限は6月末だった。通常ならば6月末で「監理銘柄」に指定され、それから1カ月以内に提出できない場合は上場廃止になるはずだった。監理銘柄への指定は、上場廃止の可能性があることを投資家に周知するためだ。実際、期限までに中間決算の報告書を出せなかったオリンパスも監理銘柄に指定された。
東芝は今回、「やむを得ない理由」がある場合、有価証券報告書等の提出期限の延長を申請できる、という規定を使って、関東財務局に延長を申請するという“裏ワザ”を使い、監理銘柄入りを避けた。「やむを得ない理由」というのは、巨大地震など外部要因が本来の趣旨で、粉飾決算が発覚したというのは「自己都合」だと思うのだが、なぜか金融庁は5月段階であっさり延長を認めている。期限は8月末だ。
ただし、東証の上場廃止ルールでは、「当該承認を得た期間の経過後8日目までに提出しない場合」としている。8月末までに決算が固まり、それに監査法人の「適正意見」が9月8日までに得られなければ、上場廃止になる可能性がルール上ありうるのだ。
もう1つが虚偽記載である。利益のかさ上げは粉飾、つまり虚偽記載に当たるのは明らかだ。
「有価証券報告書等に虚偽記載を行った場合であって、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき」
「有価証券報告書等に虚偽記載を行った場合で、その影響が重大であると当取引所が認めたとき」
そんな外野の声が東証の判断を揺るがしたのである。最終的に2012年1月に東証はオリンパスの上場維持を決めるが、その際、「影響が重大」でない事を説明するのに四苦八苦した。それで基準を厳しくしたのだろう。「直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難」という状況に合致するには、よほどの大企業が、よほど大規模な粉飾決算をしない限り、該当するとは思えない。
「(損失の)隠蔽行為は、一部の関与者のみによってなされたものでした。また、これらは同社本来の主たる事業部門とは直接的に関係せずに、その事業の経営状況には影響が及ばない形で進められたものであり、不適切な会計処理は、売上高や営業利益には概ね影響していませんでした」
結論は、「上場廃止が相当であるとする程度まで投資者の投資判断が著しく歪められていたとは認められませんでした」だった。
では、東芝はどうか。
これまでの報道では「組織ぐるみ」の可能性が強い。歴代の社長が利益操作を指示していたと疑われる行動をとっていたことも明らかになりつつある。社長の指示で組織をあげて利益操作をしていれば、オリンパスの時のような逃げ口上は通用しない。
もう1つの粉飾決算の目的でも、東芝はまさに本業の利益かさ上げを目的にしている。2000億円の利益をかさ上げしておいて、投資家に「業績トレンドを誤らせない」という理屈は通らない。ここまでの段階では東芝は明らかにアウト、上場廃止基準に合致するとみていい。
問題は、オリンパス後に東証が書き換えた部分、「直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らか」であるかどうか、だ。
東芝株は日本の資本市場を代表する銘柄の1つである。その企業が虚偽の業績を作成して株主を騙していたこと自体、市場の秩序を大きく乱していることは間違いない。東芝のような大企業が2000億円以上ともされる粉飾を行っても秩序は維持できる、と言い切れば、もはや、ほとんどの粉飾決算のケースで上場廃止にすることはできなくなるのは間違いない。
これが粉飾決算でなくして、何が粉飾なのでしょうか?
ご承知のように、堀江氏は、自社株の売却益を利益計上した(約50億円の粉飾)のが違法であるとの理由で2年6か月の実刑が下された訳ですが…今回の東芝の件は、粉飾額が少なくても1500億円以上、場合によっては2000億円にも上ると言われているではありませんか?
しかも、普通、粉飾決算なんてものは、トップは余り細かなことに口は出さないものですが、東芝の場合は、トップが半ば粉飾を強要していた、とも。
では、何故、皆東芝に甘いのでしょうか?
それは、東芝が名門企業と思われてきたからです。
それに、そもそも粉飾自体はどこでも大なり小なりやっているのではないかという思いが企業経営者たちにあるからかもしれません。
さらに言えば、粉飾決算に目を光らせなければいけない役所(証券取引等監視委員会とその下部組織)も、私の経験から言えば粉飾を率先して根絶しようなどいう意識が弱いことが上げられると思います。何故かと言うと、そもそも一般の役人は、そのようなこと(摘発)をしても、何も自分にとって得になることはないという思いがあるからです。できるならば波風を立てたくない、と。
参考までに言えば、粉飾事件で当局のメスが入るのは、大抵の場合企業が破綻した後の話であり、企業が破綻もしていないのに粉飾の容疑で摘発されるなどというのは、これまで殆ど例がないと言っていいでしょう。
監査法人に大甘な東芝「不適切会計」第三者委員会報告書 - 郷原信郎
今回のように、経営トップの方針にしたがって、企業内部で利益操作が行われるというのは、本来、内部統制の問題ではない。内部統制は、経営トップが、その方針に沿って業務が行われているかどうかを把握する手段であり、経営トップが利益操作を意図していたのであれば、そもそも、内部統制を問題にする余地はない。
そのような場合は、内部統制の枠組みの外にある会計監査人が不適切な処理を防止する機能を果たす以外に方法はないのである。
しかも、会計監査人が問題を指摘していないというのは、その会社の役職員にとって最大の弁解ともなり得るのである。表面的には、会計監査人に対して十分な説明を行っていなかったとか、実態を隠していたと言っても、その点について質問をしたり、資料の追加提出を求めたりしない会計監査人は、実質的に、そのような処理を認めていると思われても不思議はない。
今回の第三者委員会報告書で述べているような「経営トップが社内カンパニーに対して過大な収益目標と損益改善要求を課し、その達成を強く求める」というようなことは、多くの企業で、程度の差はあれ、行われていることである。
問題は、それが、「適切な会計処理」の範囲内で行われるのかどうかであるが、それが不適切の方に流れないようにするための「歯止め」となるのが、外部の会計監査人の監査のはずだ。
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