マイナス金利は経済の縮小均衡を加速させる|野口悠紀雄 新しい経済秩序を求めて|ダイヤモンド・オンライン
マイナス金利を導入した日本銀行の意図は、次のようなものであろう。
名目金利をマイナスにすることによって内外金利差を拡大して円安を導く。それによって物価上昇率を高める。
ところで、企業が投資を正当化できる条件は、後で説明するように、実質収益率+製品価格の期待上昇率が、名目金利を上回ることである。
したがって、製品価格と物価一般を同一視すれば、名目金利−期待インフレ率を低下させれば、投資が増えることになる。
つまり、名目金利が低下しても期待インフレ率が上がっても、実質収益率が低い投資も正当化されることになり、採択できる投資は増える。
この考えにおいては、デフレ下では、作ったものが値下がりしてしまうので企業は投資をしない。それに対してインフレ下では、作ったものの値段が上がっていくので投資をする、とされる。
これがインフレターゲットの考えだ。
この考えには後で述べるように大きな問題があるのだが、しかし、現実には、そうなる前に問題が生じている。
物価上昇率が低下したのだ。そのため、投資が縮小しないように名目金利を下げざるをえなくなってきたのである。
物価上昇率が低下した原因は、つぎのとおりである。
為替レートについては、内外金利差は拡大するが、一方において世界的な投機資金にリスクオフの流れが生じており、日本の国債に資金が流入している。このため、為替レートは円高方向に動いている。また、資源価格を低下させている。
このため、円安にならない。そして、国内物価が上昇しない。
図表1に見るように、日本では企業物価が下落している。
ヨーロッパでも同様のことが起こっている。
ユーロがマイナス金利を導入したのは、物価上昇率が低下していることに対抗するためであったが、それを引き上げる効果はなかった。図表5に見られるように、物価上昇率の低下は続き、15年には対前年比がマイナスになった。その後も低迷が続いている。
それは、名目金利が低い状態では、実質収益率がマイナスの投資も正当化されることになり、経済全体の立場から望ましくないことだ。