金融機関が殺到する仮想通貨技術「ブロックチェーン」の現在|野口悠紀雄 新しい経済秩序を求めて|ダイヤモンド・オンライン
フィンテックでもっとも重要と考えられているのは、ブロックチェーン技術の応用だ。これは、ビットコインなどの仮想通貨の基礎技術である。
仮想通貨にとどまらず、広い応用範囲を持つ。それが、金融業務、さらにはビジネス全般に革命的な変化をもたらすと認識され始めた。
とくにこの数ヵ月、雪崩現象といってよいほどの急激な動きが見られる。まだ実験段階であり、実際のビジネスに影響を与えているわけではないが、金融産業が将来大きく変わることを予感させる。
もしも、経済的な価値を仲介者なしに地球上の任意の相手に送ることができれば、世界は大きく変わるだろう。そのことがいま、ブロックチェーン技術によって実現されようとしているのである。
これは、情報の通信においてインターネットが登場したことと似ている。それまでの情報通信は電話や郵便のように中央集権的な管理機関が存在し、情報伝達を仲介するする役割を担っていた。そのため、コストがかかる仕組みであった。ところがインターネットによって、この状況が大きく変わった。インターネットには中央集権的な管理機関が存在せず、情報を世界中の誰にでも直接送れる。このため、コストが著しく低下した。
マネーなどの経済的な価値の移転について言えば、これまでは銀行などの中央集権的な管理主体が仲介を行なっていた。このために多大のコストがかかっていた。ブロックチェーンは、中央集権的な管理者なしに経済的価値の移転を可能にすることによって、経済活動に大きな変化をもたらすのである。
ロンドンに本拠地を持つ世界最大級のプロフェッショナルサービスファームであるPwC(プライスウォーターハウスクーパース)は、「ブロックチェーン技術の意味はきわめて深遠なので、その応用によって、われわれが知っている形のビジネスは革命的に変わるだろう」と述べている。
仮想通貨技術は、これまでのようにリバタリアン(自由至上主義者)の世界の出来事ではなくなった。そして、エスタブリッシュメント世界の中核を揺がそうとしているのである。
まず、中央銀行が、現在存在する現金通貨を将来は仮想通貨に入れ替えようとする試みに乗り出している(「仮想通貨の重要性を国際機関が認める」『週刊ダイヤモンド』2016年2月13日号、本連載第51回参照)。
ブロックチェーン技術開発会社であるR3は、2015年にコンソーシアムを結成した(本連載第27回、本連載第51回参照)。メンバーは、欧米の主要な金融機関。日本からは、三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほ銀行、三井住友銀行、野村証券、SBIホールディングスが参加している。
ブロックチェーンを用いた証券取引の検討を最初に始めたのは、ナスダックである(『「超」情報革命が日本経済再生の切り札になる』、本連載第27回参照)。
ナスダックは、昨年12月に最初の取引を行なった。ブロックチェーンを用いることによって、これまでは3日かかっていた未公開株取引の決済を、10分間で完了できるという。
アメリカの証券取引委員会(SEC)は、インターネットを介しての証券発行を承認した。この申請を行なったのは、オンライン小売業者であるOverstock.comだ。
Overstockは、SECによる許認可が必要ない私募債の発行には、すでにブロックチェーンを使っている。今回の措置によって、公募債についてもブロックチェーンによる取引が認可されたことになる。
Overstockは、ブロックチェーンを用いた証券発行のサービスを他社にも提供する予定だ。これは、将来の証券取引に大きな意味を持つと考えられている。
フィンテックは、もともと破壊者としての側面を持っている(本連載第36回参照)。
対応しない限り、業務の多くを新しい競争相手に奪い取られてしまう。自分で対応したとしても、内部の大幅な改革は免れない。
従来のITを使うのであれば人手はどうしても必要である。しかしブロックチェーン技術は、基本的には人手なしで運転できる仕組みだ。したがって人員の大幅な削減が可能になり、また、必要になる。究極的には、銀行や証券会社そのものが必要なくなるかもしれない。
また、ブロックチェーン技術は、他のフィンテック技術より破壊的影響は大きい。なぜなら、その応用範囲は金融に限らないからだ。したがって、登記などの記録業務も不必要になる可能性がある。