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セブン&アイが展開する、買い手市場の時代に売るための戦略とは|セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問 鈴木敏文|ダイヤモンド・オンライン

ユニクロさん、ニトリさんなど今、小売りで伸びているのは自主マーチャンダイジングに取り組んでいる会社ばかりだ。問屋に頼らずに、自ら売る商品を開発して販売している。


 私は、自主マーチャンダイジング以外に、小売りが生き残れる道はないと考えている。売り手市場から買い手市場への転換は、ものが豊富になってきたことを意味する。そうなると、お客さまは自分の気に入ったデザインやサイズの商品しか買わないから、「平均的などこにでもあるもの」は売れないのだ。


セブン-イレブンも自主マーチャンダイジングで成長した会社だ。常にお客さまが求めているものや品質、サービスを探究して形にし、お客さまの評価にさらしてきた。そして私は、このセブン-イレブンで培った自主マーチャンダイジングのノウハウを、グループ各社にも導入しようとしてきた。

 お客さまのニーズという意味では、現代は「客層」という言葉は通用しない。1人のお客さまがコンビニにもスーパーにも、そして百貨店にも行くからだ。だからグループ内で「プライベートブランドをつくりたい」という話が出たとき、「それはいいことだ」と即座に承諾した。ただし、「つくるのならば、グループのどの店でも、同じ価格で売れるものにしろ」とだけ条件を付けた。


 この条件には全員が反対した。スーパー側は「価格を下げないと売れない」と言うし、百貨店側は「スーパーやコンビニで売るような商品は、デパートでは売れない」と言う。コンビニ側はコンビニ側で、「同じ商品だとスーパーがすぐに安売りをするから反対だ」と言う。


 だが私は、「いいから私の言うとおりにやってみてくれ。『自分たちの客層』などと言っている時代ではないはずだ」と押し切った。そうして誕生したのが「セブンプレミアム」だ。食パン、惣菜、乳製品、冷凍食品、お菓子、ドリンク類等々。どの業態でも同じ商品を同一価格で売っているが、これらは実によく売れている。


 私は、自分で商品を仕入れたこともなければ売ったこともない。レジの打ち方さえ分からない。だからイトーヨーカ堂の社長に就任したときも、「鈴木は人事や管理ばかりをやってきたから、現場のことは分からない」と陰口を叩かれたものだ。


 しかし私も1人のお客であるから、お客さまの立場で考えてみることはできる。商売は、お客さまの立場で考えるものであって、売り手側の常識で考えるものではない。だからお客さまが「よいと感じるだろうな」と思うこと、「便利だろうな」と思うことをやれば支持されると考えた。それを具体的なビジネスモデルとして形にしたのが、自主マーチャンダイジングなのだ。

 自主マーチャンダイジングは、お客さまの立場で常に新しい商品を追究する。新しい商品とは、「今までまったくなかったもの」と解釈しなければならないが、さりとて「見たこともないような奇抜なもの」である必要はない。

ニトリさんの似鳥昭雄社長は、新しいマーチャンダイジングのあり方に昔から強い興味を持ち、まだライバルの家具屋さんがたくさんあるうちから、自分1人で東南アジアなどをこつこつと回っていた。

 私に言わせれば、似鳥さんの商品に対する興味と、新しい商品を生み出したいという執念がなければ、ニトリさんの成功はあり得なかった。そのために地道に東南アジアを回り続けてきたのだ。

 読者の皆さんもご存じのように、セブン-イレブンの日販は、ローソンさんやファミリーマートさんに対して十数万円の差を付けている。その理由は、商品そのものが違うからだ。商品の違いとは何かと言えば、徹底した自主マーチャンダイジングにこだわっているかどうか、である。


 マスコミはよく「コンビニは飽和状態になった」などと言うが、私に言わせれば同質な店ばかりだから飽和が起きるのであり、常に新しい商品を開発し続けて同質にならなければ、飽和はしないはずだ。


 ただ、セブン-イレブンとて、成功にあぐらをかくようになったらどうなるか分からない。だからこそうまくいったら次、その次と、お客さまが求めている商品やサービスを探し続けなくてはならない。これからの時代は、リアルとネットの融合は必須だ。融合が進めば進むほど、お客さまの利便性は高まる。小売業の次なる目標が「オムニチャネル」であるのは間違いないだろう。

セブン&アイグループで取り組んでいるオムニチャネルは、グループ各社が持っている、あらゆる商品やサービスを一括して扱い、「いつでも、どこでも、お客さまにご提供できるようにする仕組み」だ。すでに10年以上も前から構想は持っていたが、「オムニ=あらゆる」という言葉を聞いたときは、「これだ」と思った。


 オムニチャネルは、「究極の接客」だと考えている。社会の高齢化が進むと、1世帯の家族の数も減ってくるし、1人で食事を作ったりするのは大変になる。そんな時代に、ネットで味が良くて手ごろな値段の弁当を頼み、配達してもらえるのであれば、極めて便利だし経済的に違いない。ファッションだって同じだ。自宅でも近所のセブン‐イレブンでも、そごう・西武の商品を受け取れれば、こんな便利なことはない。

「アマゾンさんや楽天さんのような巨人がいるのだから、二番煎じではないか」との批判もある。しかし、オムニチャネルは断じてアマゾンさんと同じではない。アマゾンさんの業態は、運送会社に近い。ネットで注文を受け付けて、倉庫から商品を配送するというビジネスモデルだからだ。


 一方、セブン&アイが進めるオムニチャネルの胆は、商品開発にこそある。グループの各社が自主マーチャンダイジングで魅力ある商品を作り、オムニチャネルに乗せていく。そうすると新しい商品をどんどん開発する意欲も出てくる。


 例えばイトーヨーカ堂は、欠品が怖いし、自分たちにもノウハウがないので、自主マーチャンダイジングへの取り組みにどうしても前向きになれないことは前回も述べた通りだが、ネットが試しの場として機能すればどうか。新しい商品をどんどん出して、それがネットで売れ、リアルの店舗でも売れる。ヒット作が出ればグループ内でも評価され、グループ全体での展開も可能になるだろう。商品開発への挑戦を通じて、自らの体質を変えていくことにこそ、オムニチャネルの真の狙いがある。


 現在のセブン&アイグループの社員たちが、このことをどれだけ理解しているかは、少々疑問だ。資本を投下して、配送ネットワークを整備するものだと単純に理解している社員もいるし、「オムニチャネルが自分たちのビジネスに貢献してくれるかどうか疑問だ」などと評価している社員もいる。


 しかし、貢献してもらえるかどうかなどと、受け身の姿勢で判断するようではダメだ。自分たちで育てることができるかどうか、という話であって、既にできあがったものではないからだ。新しいものを作り続けるには、こうした発想から改めてもらわなければならない。

セブン-イレブンは創業以来、40年以上にわたって商品開発と質の向上に、妥協することなく取り組んできた。

 うまくない商品で、お客さまの期待を裏切るようなことがあってはならないし、どこまでも品質にこだわる姿勢は、絶対に失ってはならないのだ。

「新しいものを作る」というと、難しいとばかりに身構えてしまう人も多いが、決してそんなことはない。

日常の何気ないシーンを観察してみると、「こんなものがあったら良いのに」という発想はいくらでも出てくるはずだ。そして、そこをブレークスルーすることが、「今までにない商品を世に問う」ということだ。

 オムニチャネルでは、店舗は「今そこにある商品」だけを売っている場ではなく、セブン&アイグループで取り扱っている、膨大な数の商品への窓口となる。商品を取りに来ていただければ手数料収入を得られ、店の収益構造にも厚みが増す。つまり、儲かる領域が広がるのだ。


 これまで長らく、小売りとは棚に並んでいる商品を売る商売だった。それは「店」という場が持っている限界でもある。それを打破して、店が別の新しい性質を備えた場へと生まれ変わるきっかけとなるのがオムニチャネルであり、従来の延長線上で考えていては新しい展開は生まれてこない。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20160905#1473071762

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