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「思弁的実在論」とは何か?メイヤスーのもたらした実在論的転回|いま世界の哲学者が考えていること|ダイヤモンド・オンライン

注目したいのは、実在論的転回を唱える思想家たちが、二つの重要な傾向をもっていることです。一つは、彼らが総じて、「ポストモダン以後」を明確に打ち出していることです。20世紀末に流行したポストモダン思想に対して、その終焉を突きつけたわけです。


もう一つは、ポストモダン思想を、歴史的により広い視野から捉え直したことにあります。実在論者たちによれば、ポストモダンにおいて頂点に達する言語論的転回は、じつを言えば、すでにカントの「コペルニクス的転回」から始まっています。これを示すために、フェラーリスは「フーカント(フーコー+カント)」という言葉で茶化しています。


さらに、この伝統は、ある意味では近代哲学の創始者デカルトにまで淵源する、とされます。そのため、フェラーリスは「デカント(デカルト+カント)」という言葉を語ることもあります。「フーカント」も「デカント」も、存在は思考によって構築されるという「構築主義」を戯画的に表現しています。こうした構築主義が、20世紀末のポストモダン思想の本質をなしている、と考えたのです。


21世紀を迎える頃には、ポストモダンの流行も終息していましたが、実在論的転回はそれを思想的に葬り去ろうとしたのです。その意味で、フェラーリスが語るように、現代の実在論的潮流を、「時代精神」と呼ぶことも可能かもしれません。


しかし、注意したいのは、実在論的転回といっても、一枚岩ではなく、それぞれの論者によって内容が違っていることです。そこで、その思想を理解するには、個々の哲学者たちの議論を取り上げなくてはなりません。

20世紀の後半(70年代以降)、フーコーデリダドゥルーズなど、フランスの現代思想家たちが、アメリカで多くの支持を集めました。しかし、21世紀になると、そうした巨匠たちも亡くなり、思想的カリスマが不在となってしまいました。そうした状況で、新たな思想的ヒーローとして登場したのが、カンタン・メイヤスーです。彼は、現在パリ第1大学の准教授となっていますが、1967年生まれとまだ若く、注目されたころは30代でした。


メイヤスーが2006年に出版し、その後「思弁的実在論」の運動を形成するきっかけになったのが、『有限性の後で』です。アラン・バディウの推薦もあって、この本によってメイヤスーは一躍、現代思想界の中心に立つようになりました。


では、この本で彼は、何を語ったのでしょうか。彼の基本的な視座となっているのは、カント以来の近代哲学の中心概念が「相関」になったという洞察です。その意味を彼は、次のように説明しています。


私たちが「相関」という語で呼ぶ観念に従えば、私たちは思考と存在の相関のみにアクセスできるのであり、一方の項のみへのアクセスはできない。したがって今後、そのように理解された相関の乗り越え不可能な性格を認めるという思考のあらゆる傾向を、相関主義と呼ぶことにしよう。そうすると、素朴実在論であることを望まないあらゆる哲学は、相関主義の一種になったと言うことができる。


メイヤスーによれば、こうした「相関主義」は、20世紀の現象学であれ、分析哲学であれ、免れてはいません。そして、言うまでもなく、言語論的転回やポストモダン思想も例外ではありません。メイヤスーはこうした相関主義を乗り越え、思考から独立した「存在」へと向かうのです。その意味で実在論を目ざすのですが、かつての「素朴実在論」とは区別されます。


むしろ、彼が「実在」と考えているのは、数学や科学によって理解できるものです。その立場を、メイヤスーは「思弁的唯物論」と呼びながら思考を深めていくのです。


人間の思考から独立した「存在」を考えるために、メイヤスーは人類の出現以前の「祖先以前性」を問題にしたり、人類の消滅以後の「可能な出来事」を想定しています。これらは、「人間から分離可能な世界」として、科学的に考察することが可能でしょう。それなのに、「相関主義」はそのような理解に目を閉ざしてきたのです。


こうして、メイヤスーによれば、カントの超越論的観念論(認識論的転回)も、20世紀の言語論的転回も、ポストモダン思想も、相関主義に他ならず、批判されなくてはならないのです。


しかし、メイヤスーの哲学は、今のところ基本的な視点を提示したにとどまり、そこから具体的にどんな思想を展開していくのか、明らかではありません。それについては、今後の議論を待たなければなりません。

ポストモダンの変形。

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