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アメリカの変質 リーダーなき世界へ〜イアン・ブレマー氏インタ | NHKニュース
「2016年にパクス・アメリカーナが終えんを迎えた」と言うことができます。超大国アメリカは世界を先導しなくなり、世界はリーダーシップの不在という深刻な状況になります。トランプ氏はそれを「アメリカ第一主義」という方針で明確に示しました。
トランプ氏はもはやアメリカの価値観を世界に広めることを望みません。その場その場の利益に基づいて世界とアメリカが関係を築くことを望んでいるのです。対ロシア、対中国、対日本、対イギリスなど、何であっても、得になればよいのです。
トランプ氏が最も関心を持って省こうとしているのが、アメリカの世界的リーダーシップの中核となっていたものです。残念ながら、アメリカに代わってその役割を満たす国も、ほかの一連の価値観も存在しません。アメリカの外交政策は中国の外交政策に似てくるでしょう。つまり「自国の問題に介入されることは望まないが、どの国とでも取り組む。うまい取引をして、両者が得をする」という考え方です。それがまさにトランプ氏の望む外交政策です。それが「アメリカ第一主義」です。
フィリピンのドゥテルテ大統領は中国を訪問し、「アメリカから離れるつもりだ。中国のほうとよい取引ができたからだ」と述べました。アジアだけでなく、中東、ヨーロッパなど世界中で、もっとドゥテルテ大統領のような指導者が現れてくるでしょう。今やアメリカの大統領は自由主義世界のリーダーではなくなりました。それが今回の結果です。
重要な点は、世界中の国々が「ドルを信用できるかどうかわからない」と示していることです。
私はクリーブランドの共和党全国大会で、彼が指名を受諾する様子を見ました。彼の演説は、不安、分断された社会、憎しみ、怒りといったものについてでした。人々は皆、興奮しました。このような人物を待っていたかのようでした。しかしそれは同盟国が何十年にもわたって信じてきたアメリカではありません。それが、パクス・アメリカーナの終えんと考える根本的な理由です。
日本の問題は防衛面ではなく経済面にあります。問題はトランプ氏がTPPの破棄を考えているだけでなく、彼が日本を1970年代の頃のように見ていることです。「日本が貿易でアメリカを利用している。日本に打撃を与えてやる。関税を課す」といった考えは、中国に対する見解と同じです。それがトランプ政権の日米関係の問題です。
パクス・アメリカーナの終えんによって、中国は世界一の経済大国になっていくでしょう。取って代わるための経済構造を構築する準備が整ってきています。特に「一帯一路」の構想は、アメリカ主導の制度に太刀打ちできるでしょう。その結果として、一部の諸国が中国との協調関係を持つようになるでしょう。しかし、それは経済面だけです。安全保障の分野で、中国は世界的な役割を果たすことができる存在ではありません。エネルギーや技術、そして外交の分野でも同様です。
一方、ロシアについては、米ロ関係が改善すると思います。トランプ氏はクリミアがロシアに属すると認めています。ただ、ロシアの力はエネルギーと安全保障にあるだけです。
アメリカ大統領選挙がもたらした劇的な変化は、アメリカと世界の歴史にとって極めて重要です。少なくとも同時多発テロとその後の出来事に匹敵するほど重要です。2017年に対する私たちの考え方を一変させることになりました。