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──この本の主題、つまり最も訴えたかったことは何ですか。


 21世紀情報革命下で、アメリカの世紀が終わり、アジアが勃興する地殻変動が進行している現実です。その現実をトランプの登場は示唆しています。


 では、なぜアメリカは、帝国としてのヘゲモニー(覇権)を失ったのか。


 第一に、デモクラシーというソフトパワーの喪失です。アメリカの民主主義が、デモス(民衆)のクラチア(権力)として機能しなくなっているのです。議員やロビイストが群がる金権政治化が進み、民衆を軽視した超格差社会を生み出しました。


 しかもその超格差社会化が、情報革命下で進む金融カジノ資本主義化と重なり合っています。0.001秒の時間差で巨万の富を稼ぎ出すアルゴリズム金融商法が跋扈し「ものづくり大国」から「カネづくり大国」へと変容し、経済力を衰微させてきたのです。リーマンショックがその表れです。


 しかもアメリカは、地球を何十回も皆殺しできる核を持ち、情報革命下で、最先端電子兵器群を開発し展開しているにもかかわらず、中東戦争を収束できません。反米感情を高めるだけで、テロを生み続けます。世界秩序の担い手としての実質的な力を失なってしまったのです。情報革命の逆説です。


 それに代わって台頭しているのが、中国やインドなど新興国、特にアジアです。「アジア力の世紀」の登場です。日本は、明治開国以来の脱亜入欧論や日米基軸論から転換すべき時に来ている、その転換のかたちが今求められているのです。

──グローバル化が、本当に貧富の格差拡大とテロの横行もたらした元凶なのでしょうか。とくにテロについては、「文明の衝突」が、主要因ではないとお書きになっていますね。


 今日のグローバル化だけを見ていると、格差拡大とテロとの相関関係が見えてきません。もし私たち、19世紀後半に始まる100年前のグローバル化に目を向けると、あの時もまた、貧富の差が拡大してポピュリズムが台頭し、テロが横行しているのです。グローバル化がつくる格差拡大の現実は、映画「レ・ミゼラブル」や、マルクスの『共産党宣言』に表れます。世界各地でテロと反乱が頻発しました。


 100年後の今日のグローバル化は、一方で米国の国内外に貧富の格差を拡大させています。他方で米・NATO連合軍が中東で空爆を続け、事実上の軍事占領を進めています。数十万人の難民が祖国を追われ、その民衆の怨嗟が、反米欧へのテロを生み出します。そのテロの真因を、シカゴ大学テロ研究班が80年以来の2500件以上の膨大なデータを基に明らかにしました。


 21世紀グローバル化の進展下、ソ連崩壊後にアメリカは、軍の民営化を進めて戦争請負会社をつくり、デモクラシーを湾岸やバルカン、中東アフリカに広める戦争を繰り出します。その結果がテロのグローバルな拡延なのです。その意味で「文明の衝突」論は、テロの表層部しか見ていない西側中心主義史観です。

──世界の政治経済の中心は、アジアに移りつつあり、実質的な統合に向かっていると述べておられます。それはEU(欧州連合)のような法的な枠組みではなく、デファクトとしての統合だと分析しておられますが。どういうことでしょうか。


 ここでもキーワードは、情報革命です。情報革命下で、距離が急速に短縮され、モノとカネ、ヒトと情報と技術が国境を超えて移動します。一国中心の生産体制から、ネットワーク分業型の多国間生産体制が広がります。アジアの場合、日本の開発援助や直接投資、技術支援が、韓国や台湾、中国やASEAN諸国の社会経済的な発展基盤をつくり上げます。その基盤の上に部品など中間財貿易を軸にサプライチェーンがつくられ、アジア経済一体化が進行するのです。


 国家主権を法制度的に削減し続けた、デユーレ(法的)の統合EUと違って、アジアの場合、国家主権を残したまま国境の壁を低くするデファクト(事実上)の統合が、アジア型生産ネットを軸に、ASEAN共同体という小国連合に牽引され進展しているのです。


 加えて三十数億の人口を擁するアジアは「世界の工場」になります。分厚い中間層が形成され、「世界の市場」が生まれ「世界の銀行」へと変容し始めます。人口オーナスが人口ボーナスに化し、世界経済の中心へと躍り出るのです。


 さらにアジアの山河や海洋、砂漠で分断された広大な空間がつくる経済的潜在性です。情報革命下で開発技術や建設機器が進化し、巨大市場と経済一体化を背景に、インフラ整備強化の需要をつくります。空間オーナスが空間ボーナスへ変換します。中国が提唱し、EUを含む58ヵ国からなるアジアインフラ投資銀行は、その担い手になります。


 世界経済の中心が、アジアの事実上の統合を基盤に、米欧世界からアジア世界へと移り始めているのです。

──今やアジアの中心は中国です。ただ、南シナ海で見られるように、中国は既存の国際秩序への挑戦者であり、とくに安全保養の面では膨張主義を採る「脅威」だと、日本では喧伝されています、この点をどうお考えですか。


 確かに中国の南シナ海での行動や国防費の急伸から、中国“膨張主義”論を引き出すのは容易です。しかしそれを、既存国際秩序への挑戦と捉えるのは短絡的です。中国の国防費は、対GDP比で2%以下で、4割近くは人件費で、兵器は貧弱です。南シナ海での領有権争いについては、それぞれの国に応分の言い分があります。日本が中、韓、露と抱えている領有権争いと同じです。


 しかし中国の急激な経済発展と、米主導の軍備増強と緊張激化が、中国権力層内部で軍部の発言力を強めています。しかも軍と資源エネルギ—産業とが中国流の軍産複合体を形成しつつあり、軍拡の動きを引き出しています。


 ただ、それに対処するためとして日本が、米韓とともに軍拡予算を増やし米国製高額兵器を購入し、武器輸出に乗り出すべきではありません。周辺諸国との軍拡競争は一触即発の危機を生み、民生ものづくり生産力を衰微させていきます。


 日本が進めるべきは、むしろ南シナ海東シナ海で漁業資源や海底ガス田の共同開発体制をつくり上げることです。それは、中国の軍拡への抑止力になります。軍拡競争のマイナスサム・ゲームを共同開発のプラスサム・ゲームに切り替え、ウインウインの関係をつくり上げていくべきです。

──安倍政権は政治経済両面で、「トランプファースト=アメリカ最優先」のように見えます。歴史の転換期にある今、日本はどのように対応すべきか。基本的なビジョンと具体的なアプローチについて、お考えを聞かせてください。


 トランプのアメリカ利益第一主義に付き従って、米軍軍事費肩代わりの要請に応えてはいけません。米軍撤退による「力の空白」を日本の軍拡で埋めるのではなく、周辺諸国との平和共生体制の構築を進めることです。


 トランプの「取引」外交戦略下で、アメリカに擦り寄り、TPPに代えて日米FTA交渉を進めることは、日本経済が米国流自由貿易の罠に落ちて衰退を進めることになります。むしろ「ASEAN+6」を軸に持続可能な自由貿易体制をつくり、地域力と民力とを強めていくことです。RCEP(東アジア包括的経済連携協定)の推進です。デファクト地域統合を、低炭素環境共同体や、ロシアやモンゴルを含めたアジアスーパーグリッド構想など資源食料エネルギー共同体の構築へつなげていくことです。日米軍事安保による同盟絶対主義ではなく、同盟の相対化です。脱亜入欧論から連欧連亜への道です。EUやアジアと連携を強めながら、AIIBに参画し、ユーラシア不戦開発共同体への道をつくることです。