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「そんなことはないだろ」などとテレビにいつも突っ込みを入れていた筆者だが、ある日都心から40㎞ほど離れた自宅まで帰るために深夜タクシーに乗った時に、話好きな乗務員さんだったので、「タクシードライバーの推理日誌みたいに、あんな長距離利用のお客さんはいるんですか?」と聞いてみた。すると、「『新幹線の最終を逃したけど、明朝キャンセルできない用事がある』といったお客様が深夜に名古屋や大阪まで利用するということは、それほど珍しくもないようですよ」とのこと。

 ただし前述したドラマのように、道で手を上げられて乗せたら「名古屋まで」と言われたからそのまま乗せていくというわけにはいかないようだ。タクシー業界では隔日勤務の乗務員同士が1台のタクシーを“専属車両”としてシェアすることが多い。そのため深夜に長距離客を乗せてしまうと、次の日に乗務するはずの乗務員が乗るクルマがないということにもなる。ほかにも、タクシー乗務員には1出番当たりの走行可能距離や勤務時間が決まっているので、仮に長距離利用の乗車を申し込まれたら、自分の所属する営業所の運行管理者にその旨を報告し指示を仰ぐことになる。

 仮にOKがでた場合に気をつけなくてはいけないのが、“乗り逃げ”である。常習犯的なひとも多いので、出発時に支払いについて確認する必要が出てくる。「目的地に両親が住んでいるので払ってもらえるので大丈夫」などと言われて乗せて目的地に到着すると、素直に「金がない」と言われることも多いとのこと。このような時の料金の扱いはどうなるのか、前出の乗務員さんに聞くと、「原則全額乗務員の自腹になります。事情にもよりますが酌量すべき理由があれば、会社によっては会社と折半などということも稀ですがあるようです」。

 支払いの心配のほかにも燃料の問題がある。多くのタクシーの燃料がLPガスなのは広く知られた話。ただ営業区域内であっても、ガスステーションとタクシー会社が契約している指定ガスステーション以外ではLPガスの充填はできない。燃料代はタクシー会社で負担するケースがほとんどであり、ガス充填ごとに現金など個別支払いは発生せず、月締めなどでガス会社からタクシー会社にまとめて請求があるとのこと。

 会社がOKを出して、料金の支払いにも問題がなくとも、今度はガスの充填をどうするかということになる。支払いは乗務員立て替えということも可能だが、土地勘のない場所でガスステーションを探すのは至難の業。所属営業所の運行管理者が調べて教えたり、地元のタクシー乗務員に聞いて教えてもらうなどの対応をとるようだ。

お客を送り届けたあとは、たまたま送り先から東京までタクシーで移動したいという、まさに奇跡的なお客が現れない限り、回送で東京まで帰ってくることになる。

 いまどきはアプリ配車に積極的なタクシー会社の乗務員ならば、原則営業区域内の通常営業でもかなり稼ぎが良く、年収1000万円も珍しくない。乗り逃げだけでなく、乗務員の平均年齢の高さを考えても、超長距離の営業はハイリスクがより目立ってしまっているのが現状だ。

 とくに朝に都心から東京隣接県までの利用などは、帰りの通勤ラッシュに巻き込まれるので、それを嫌がる乗務員も多いと聞く。

 世界的には、営業区域内で回数を多くお客を乗せたほうが儲かるという考え方が主流となっているようだ。インドネシアジャカルタ隣接市からジャカルタまでタクシーに乗ったら、最初のタクシーが高速道路のインターチェンジ手前で停車した。すると乗務員はタクシーを降り、仲間と話をしたあと、その仲間のタクシーに乗り換えるように言ってきた。すると仲間は乗せてきた乗務員に、おそらく乗車地からインターチェンジまでの料金を支払ったようだ。そして仲間のタクシーで無事ジャカルタに到着した。

 これこそまさに、最初のタクシーは長距離を嫌がり、そして途中で請け負った乗務員は長距離メインで営業しているということの顕著な例といえよう。

 日本ではこのようなことはないが、乗務員のなかには近場でコツコツ稼ぎたいというひとや、“一発ロング狙い”をメインに営業している乗務員さんなど、その営業スタイルは千差万別なのである。