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金融危機から25年 教訓は?元日銀副総裁 中曽宏さんに聞く #nhk_news https://t.co/sofpmMHFHh
— NHKニュース (@nhk_news) 2022年11月24日
25年前の金融危機の際、対応にあたった日銀の元副総裁で、大和総研の理事長の中曽宏さんに話を聞きました。
中曽さんは、日銀の信用機構課長として「山一証券」や「長銀=日本長期信用銀行」が相次いで破綻した金融危機で、金融システムの混乱を抑える危機対応にあたりました。
また、2008年のリーマンショックでは各国の中央銀行の幹部と直接、連絡を取り合って対応にあたるなど、国内外の金融危機に関する豊富な経験を持っています。
Q.金融危機前に、どのような違和感を抱いた?どう顕在化?
A.バブル経済がはじけた後も、1990年代初頭の段階ではその余熱もあって、危機意識はなお希薄だった。
いったん、バブルの後始末が終われば日本経済が再び成長路線に戻り、資産価格もまた上昇に転じるだろうから、銀行の不良債権問題も自然治癒するのではないか。そのような漠然とした期待があったと思う。
しかし、1993年の春ごろになると、潜在的な不良債権の規模は想定していたよりも実はもっと大きくて金融システムが抱える問題はかなり根深いのではないかという問題意識も芽生えていた。
山一証券など4つの金融機関が破綻した1997年の11月から1998年の日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の破綻に至る1年間、日本の金融システムが、メルトダウンの瀬戸際まで追い詰められた、本当にきわどい局面だった。
Q.危機が起きる際、リスクが過小評価されてきたようにも見える。
A.1997年の危機の当初は、危機の増幅メカニズムについての理解が十分ではなかった。
振り返ると危機の増幅メカニズムは2つあり、1つ目は金融市場の機能喪失。信用不安が高まり、市場で資金の融通が行われなくなると市場で資金を調達しながら業務を継続をしていた金融機関の資金繰りが困難になり体力の弱い金融機関の経営悪化が加速することになった。
2つ目は金融と経済の間の負の相乗効果だ。金融システムの動揺が、企業や家計の不安感をあおり、企業の設備投資や家計の消費行動を萎縮させた。景気の回復の遅れが金融機関の不良債権問題の解決をさらに長引かせる悪循環が、金融危機を深刻化させていった。
2つのメカニズムについて、日本の金融危機が始まった時ある程度認識をしていたつもりが実際には想定以上の規模で発生して危機を深刻化させていったと思う。
金融危機の怖さは、私は定点観測的な分析からだけではみえてこない、動態的なメカニズムが作動して、金融危機を増幅させることだと思う。
反省を込めて振り返ると、いくらなんでもそこまでひどいことはないだろうとリスクの過小評価が少なくとも当初あったことが危機の増幅メカニズムを大きくした面はあったと思う。
A.世界的なインフレの進行とアメリカの金融の引き締めは国際金融市場と世界経済にさまざまな影響を及ぼすと思う。
まず、国際金融市場については、過去の金融危機の影響がまだ残っている。
つまり、リーマンショックの後に、アメリカのFRBによる金融緩和が非常に長期にわたって続けられ、低い金利でのドル調達が可能だったことで、特に新興経済諸国のドル債務の残高が大きく増加している。新興諸国の金融部門を除いた主体の借り入れと債券の発行を合計した債務残高は、リーマンショック後から現在にかけて3倍近くに膨らんでいる。
こうした中で、FRBの引き締めにより、金利が大幅な上昇に転じる中、債務残高が大きい国や企業にとっては、今後のドルの調達コストの増加が大きな負担になる可能性がある。
さらに、仮にこれまで新興諸国に入ってきていた資金が金利の高いアメリカに向かって急速かつ大規模に流出する事態になると、新興国経済にとって深刻な打撃がおよびかねない。したがって、いかに国際的な資金の流れの無秩序な混乱を回避していくか。これが課題になる。
Q.金融危機を回避するための課題は何か?
世界経済については、アメリカ経済の今後の動向に左右される面が当然大きいわけだが、FRBのパウエル議長は、インフレ制御の使命を達成するまで頑張りぬく決意表明をしている。
市場では金融引き締めが長く続く結果、この先、アメリカの景気後退入りを懸念する向きもある。確かに物価を2%まで低下をさせるためにはある程度の景気減速というのは避けられないかもしれない。ただ、過去の金融危機から得られた教訓は、景気が後退しても金融機関の経済を支えていく機能が失われてさえいなければ、比較的早く景気回復を実現できるという点だ。
したがって金融システムの健全性を維持していくことが、今後の大きな課題になる。
Q.危機を乗り切るのに欠かせないもの、重要なものは何か?
A.日本の金融危機を振り返った時に必ず思い出すのは、困難な局面で金融当局や民間機関の現場で懸命に職務に取り組んでいた人たちの姿だ。
25年前の今頃、私はほとんど家に帰った記憶がない。暗黒の11月の危機対応で職場に泊まり込むことが常態化していたからだ。同僚とはよく「俺たちってホテルニチギンの常連客だな」と自嘲的に話をしていた。
それを聞いて同じようにオフィスで寝泊まりしていた当時の大蔵省の銀行局の人たちは「ふーん俺たちはホテルオークラだよ」と妙な自慢をしていた。
厳しい職場環境ではあったが自分たちを結び付け、そして支えていたのは、日本発の世界金融恐慌を絶対に起こしてはいけないという共通の使命感だったと思う。
民間の金融機関でも状況は同じだったと思う。
沈んでいく船に例えると、誰1人持ち場を離れようとしない姿に重なった。そして高い職業倫理と技量がなければ危機はもっとみにくい姿をさらしていたと思う。
今日の整備された金融のセーフティーネットは多くの人々の献身と犠牲の上に構築されたということを私は忘れてはいけないと思っている。
同時に、危機対応のDNAを組織に継承していくことも重要だ。金融危機やリーマンショックを乗り越える経験を重ねるなかで、個々の金融機関や企業が学んだ教訓も多いはずだ。
それらを雲散霧消するのでなくて、いかに組織の記憶として定着させて、そして次の世代へ受け継いでいくか。これが大きな課題だと思う。
特に大事だと思うのは危機対応の心構えのコアでもあると言えると思うが、頑張るときは頑張り抜くという組織文化。これは時代を超えて受け継がれていかなければならないと思っている。
Q.想定を超える危機に備えるにはどうすればよいか?
A.危機の教訓は学ばれてると思うので、いくつかの危機をへながら蓄積されたノウハウは今の金融規制やセーフティーネットの中に十分生かされていると思う。
よく“失われた10年”とか“20年”とか言われているが、すべてが失われた10年20年ではなかったと思う。
それでも想定外のことが起きることがあるので、やはり危機管理の要諦、ポイントとしては、最悪に備えておくということが必要だと思う。
そのためにこれまでの経験を生かして、いろいろなシミュレーションをして頭の中で必要なその道具について考えておくことが必要なのではないかと思う。
金融危機から25年 米利上げなどで新たな危機に警戒感強まる #nhk_news https://t.co/K2qw6uCjab
— NHKニュース (@nhk_news) 2022年11月24日
25年前の1997年11月、「暗黒の11月」とも呼ばれたこの月は、「三洋証券」「北海道拓殖銀行」「山一証券」「徳陽シティ銀行」が相次いで経営破綻。
翌年の10月には「長銀」=「日本長期信用銀行」12月には「日債銀」=「日本債権信用銀行」が破綻しそれぞれ一時国有化されるなど日本の金融システムが根底から揺らぎました。
日本の金融危機は2003年になってようやく沈静化したものの、2008年には、リーマン・ショックが発生するなど、その後も世界で金融危機が繰り返されています。
足元では、新型コロナウイルス対応として実施された大規模な財政出動などで新興国や途上国の債務が膨らんでいます。
国際決済銀行によりますと、ことし3月末の時点の新興国全体の政府や企業などの債務の合計は82兆ドルと、2011年12月末の時点と比べ、およそ2.6倍に拡大しています。
インド洋の島国・スリランカは、財政運営の失敗に新型コロナの影響も重なって外貨不足に直面し、深刻な経済危機に陥りました。
アメリカなどが記録的なインフレを抑えるため、大幅な利上げに踏み切る中、新興国で資金の流出や、ドル高によるドル建ての債務の増大が一段と加速すれば、金融市場の混乱などを通じて新たな金融危機につながりかねないことから、警戒感が高まっています。
25年前の1997年11月、「三洋証券」、「北海道拓殖銀行」が経営破綻したのに続いて、当時の4大証券の一角、「山一証券」が自主廃業に追い込まれました。
バブル経済の崩壊以降、株価が大幅に値下がりし、不動産価格の下落も続いたことなどから、金融機関は巨額の不良債権を抱えました。大手銀行などは軒並み赤字に転落し、翌年には、長銀=日本長期信用銀行や日債銀=日本債権信用銀行が破綻するなど日本の金融システムが根底から揺らぎました。
不良債権処理を急ぐため、銀行などが企業への融資を控える「貸し渋り」が社会問題化するなど、金融危機は、企業の資金繰りにも影響を及ぼし日本経済の低迷を長引かせる要因となりました。
1990年代の金融危機を経て日本は、金融危機を防ぐための規制の枠組みや危機が起きたときに金融システムの安定化をはかる具体的な手段や法制度などを整え金融危機は2003年の夏には沈静化しました。
しかし金融危機は繰り返されます。2008年9月には、アメリカの大手証券会社、「リーマン・ブラザーズ」の破綻をきっかけにした世界的な金融危機が発生。アメリカの住宅市場の悪化でサブプライムローンと呼ばれる低所得者向け住宅ローンが焦げ付き、関連する金融商品に投資していた証券会社やヘッジファンドなどが多額の損失を計上しました。
「リーマンショック」をきっかけに世界同時株安が急速に進行するなど、金融市場は大混乱に陥りました。影響は瞬く間に世界中に広がり、日本でも2008年度のGDP=国内総生産の実質の伸び率は、マイナス3.6%と大幅な落ち込みとなりました。
アメリカが利上げに踏み切った際には、新興国から資金が流出し、通貨危機に陥るなどして、世界の金融市場が混乱するケースがたびたび起きています。
1994年に起きたメキシコ通貨危機では、FRBがこの年の2月から、政策金利を急速に引き上げたことで、政情不安が起きていたメキシコから資金が流出しました。この結果、メキシコの通貨・ペソは、ドルに対して一時、およそ60%急落。ドル建ての債務の返済が難しくなったメキシコは、各国から支援を受けて、危機を乗り切ったものの、その後も急激なインフレや経済の低迷が続くことになりました。
また、FRBが政策金利を引き上げた1997年には、7月にタイで通貨・バーツが急落するなど資金流出が加速して経済危機が発生。危機は、インドネシア、マレーシア、韓国などにも波及して、「アジア通貨危機」を引き起こし、翌年のロシア・ルーブル危機にもつながるなど、世界的な金融不安を招く形となりました。
そして、アメリカが大幅な利上げを続けることし。外国為替市場でドル高が続く中、新興国の通貨はドルに対して大きく下落しています。ドル建ての債務が膨らんで返済負担が増加し、新興国経済に打撃となるおそれが指摘されていて、5月には南アジアのスリランカが債務の増加と外貨不足、それに通貨安が重なり、経済危機に陥りました。
こうした事態を受けて、G20=主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議でも新興国経済の動向が今後のリスクになると指摘されるなど、警戒感が高まっています。
今月17日、IMF=国際通貨基金と東京大学が危機対応をテーマにした会議を都内で開きました。
会議には25年前の金融危機の際、日銀の信用機構課長として危機対応にあたり、その後、副総裁を務めた、大和総研理事長の中曽宏さんや金融庁の前の長官でニッセイ基礎研究所エグゼクティブ・フェローの氷見野良三さんのほか、インドの中央銀行の元総裁、それにアメリカの大学教授など、各国の金融の専門家らが参加しました。
この中で新型コロナウイルスをめぐる危機対応について討論が行われ、専門家からは、新型コロナ対応として各国が行った大規模な金融緩和について、他に選択肢はなかったという意見が出されました。
その一方で、緩和の規模が過剰だったのではないかという指摘や、財政出動により新興国を中心に公的債務が膨らんでいる点に注意すべきだという指摘も相次ぎました。
そのうえで、新型コロナ対応の局面が収束に向かいつつある中で、「市場の安定のために中央銀行が対応するはずだ」といった市場の過度な期待やモラルハザードを排除しなければならないとか、過度な金融緩和の継続は、金融危機の芽になりうるなど、警鐘を鳴らす意見も出されました。
討論の中で、中曽さんは、「おそらく次の世代も金融危機の管理や対応をしなければならない局面が来る。過去の危機管理のDNAを次の世代に受け継ぐことが大事だ」と指摘し、過去の金融危機の教訓を伝えていくことの重要性を強調していました。